生徒会の憂鬱

爆弾の捜索が始まってどのくらい経ったろうか…いつもなら部活動が始まっている時間だ。
真剣に探す者、ゲーム感覚で参加するもの、既に学園内の捜索は徐々に中だるみを感じさせるものがあった…。

◇◆屋上
「…なんだか、不穏な感じだ。」

屋上へと続く階段を上りつつ、ぽつりと呟きが漏れるシューラン。

「体育祭といい、無茶なことが好きみたいね。」

同じように呟きに似た声音で吐くのはリョーカだった。
シューランは振り向くと軽く会釈をして屋上へと出る。達観したような二人の空気は互いに何処か似たものを感じたかもしれない。

「あっ!シューランちゃん…と、えーっと、、リョーカちゃん♪
ね、ね、なにか見つけた〜?ていうか、爆弾ってどんなのかなぁ?」

扉を開くと、制服姿で四つん這いになりながらベンチの下を覗き込むユズキ。
その恰好のまま嬉しそうに振り向き、ひらひらと手を振って二人を出迎えた。緊張感の欠片もない、輝く様な満面の笑みで。

「……小鳩さん、君って人は…。」
「変わった人が多くて…本当、退屈しないわ。」

目のやり場に困るシューランと、少し呆れた様な、しかし楽しむような視線のリョーカ。二人の静かな呟きは、先ほどよりも少しだけ和んだような穏やかなものだった…。

◇◆池
「…怪しまれている方もいらっしゃいますわね…。訓練と思いながらも重々気を付けて捜索して下さっているのなら良いのですけれど…」

小さく呼気を落としつつ、池の周りを捜索しながら歩くカナメ。
池の鯉にふと視線を取られ、足をとめた。

「あの…。この訓練、何をもって終了になるのでしょうか?」

と、その背後から尋ねたのはサリュだった。
サリュはそのままゆっくりと歩みを進め、ちょこんと、池のふちにしゃがみ込んで鯉を眺めはじめた。

「…爆弾が見つかる、もしくは制限時間までですわね。どちらにしても会長の一声がかかりますわ。」
「そう…ですか……あぁ、早く寮に帰ってのんびりお風呂に入りたい…。」

結局いつ終わるか分からないこの訓練に、思わずため息交じりにそう漏らすサリュ。
その様子に、カナメは複雑な思いを抱いていた。勿論、ここで真実を伝えるわけにはいかず、静かに「そうですね。」と相槌を打つにとどまるのだった…

◇◆プール
「こんにちは〜。通りすがりのプール調査隊ですっ」

ピシッと敬礼のように額に手を当ててみたりしつつプールサイドにやってくるリモ。

「水場の近くにはないものかなぁなんて思ったけど、結構探してる人もいるのね」

視線の先には水中を捜索する生徒達、その中には指定水着に水泳帽とゴーグルをきっちり決め込んだヤドリギが、華麗にコース台から飛び込んでいる姿があった。
完全に本来の目的を忘れ去り、心地良さそうに泳いでいた。

「わぁ、凄いー…っとと…」
「…っと、ごめんね。大丈夫?」

感嘆の声をあげ思わず拍手をするリモに、排水溝を探しながら後ろ向きに歩いていたユイトがぶつかり、申し訳なさそうに眉を下げた。

「大丈夫っ。そうだそうだ、爆弾ね。ついつい忘れそうになっちゃった。」
「この辺りは特に怪しいものはなかったよ。あるとしたら向こう側かな?」

「………あ、爆弾。」

リモとユイトの二人が反対側のプールサイドを探し始めたころ、ようやくヤドリギも我に返り素潜りをして水中を捜索し始めるのだった。

◇◆玄関、下駄箱
「あらあら……皆さん随分慌ててるのね…玄関に靴がこんなに…」

爆弾を捜索するよりも、玄関に散らばった靴が気になってしょうがないツバサ。
下駄箱を捜索していたナツキがそれに気がつくと、小さく笑いながら手を伸ばした。

「お嬢さん、一人じゃ大変でしょ?」
「あら、紳士さん…ありがとうございます。」

唐突にかけられた冗談めいた声に、ツバサは少しばかり眉を下げた。
しかしすぐに柔らかに微笑んで会釈をすると二人はせっせと散らかった靴を整頓した。

「…まぁ、スッキリ綺麗だわ。」
「うん、普段は気にもしないけど、ここまで綺麗にできると気持ちいいもんだねぇ。…で、ツバサちゃん?捜索はすんだの?俺の収穫は今のとこコレだけ。」

そう言って、一瞬ラブレターかとも思われる白い封筒を指に挟んでひらりと見せるナツキにツバサは呆けた様に眼を瞬くが、「あ」と声を漏らすと小さく肩を揺らした。

「爆弾の捜索でしたね。お片付けに熱中して忘れてしまっていたわ。」
「あはは、参ったな。じゃあそっちも手伝うよ。」

可笑しそうに肩を揺らすナツキとツバサは二人で捜索を再開した。

◇◆並木道
「……存外、難しい。いや、予想通りと言うべきか――」

ふむ、と独り言ちながら並木道を歩くロウガ。
ふと彼の頭上、カサカサと音のする方を見上げると、顔に数枚の木の葉が被さる。

「おっと…悪ぃ…」
「いや…大したことは……成程、木の上からとは考えるものだな。」
「あら、先を越されましたね。」

その木の上にはイブキ。そして、今しがた登ろうと隣の木に手をかけていたリュウゲツが少し残念そうに声をあげた。

「一本一本登って確かめるのもいいが……此処から見た感じはこの辺りにはなさそうだな。」

リュウゲツに向け、少し苦笑いを浮かべながら言葉をかけると、ゆっくりと木を滑りながら降りてくる。

「では、後は地中の捜索でしょうか。」
「…罪のない樹木を傷つけないようにな。」

リュウゲツがどこからか持ってきたらしいスコップを片手に言うと、ロウガは静かに嗜めつつ三人は捜索を続けた…。

◇◆生徒会室
「イオリ―、お邪魔するわよー。」

ベルティーナがガラリと生徒会室の扉を開くと、中にはヒビトとイオリが机の上に広げられた構内図を前に何やら話をしているようだった。

「…お、おー。ベルじゃん!お前なんでこんなとこ。今訓練中だろ?」

「隠し玉がありそうな気がして……。」

と、答えたのは唐突にベルティーナの背後から顔をのぞかせたヒナだった。

「…そーいうことっ。イオリを狙うなら一番イオリ居る場所が怪しいでしょ?なんなら大掃除くらいしてあげてもいいわよ?」

にっと口端をあげるベルティーナに、イオリがむっとした様子で近づいてくる。

「必要ない。訓練中、一般生徒に内情を漏らすわけにはいかんのでな。立ち入り禁止だ馬鹿者ども。まったく…さっきから、次から次へと…陽向、鍵をかけろと言っただろう!」

どうやら二人以外にも生徒たちが押し掛けた様子で、いつも以上に不機嫌なイオリに二人はぴしゃりと扉を閉められ、ヒビトに軽いフォローをされつつ渋々生徒会室を後にするのだった。

◇◆◆生徒会室
「中庭で目撃情報がありましたが…さて如何しましょうか?会長。」
「…放っておけ。勝手に尻尾を出す。」
「放っておいて…大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。狙いは間違いなく私だからな。関係ない生徒を巻き込むような馬鹿な真似はせんだろう。」

ゲラルトとイオリは静かに言葉を交わすと窓の外の中庭を一瞥し、そして生徒会室を後にした…。


≪ツヅク≫