想い出を探して |
エピローグ 「まさか本当に見つかるとは…………ありがとう。」 野栄は驚きと、嬉しさの入り混じった笑みでくしゃりと目元を細めると木箱を両手で受け取る。 「これで仲直り、出来ますよね?」 「だよな!根っこに好きだからって感情があるなら、絶対仲直り出来るはずなんだ!」 イブキとヒビトの言葉に何処か困ったような複雑な表情を浮かべた後、しばしの間黙ったままタイムカプセルを見つめ、そっと撫で、そして、長く深く息を吐く。 「…実は君たちに一つ…いや、二つ言っていなかったことがあってね…」 「依頼人が隠し事とはいただけないね、しかも二つも?ルール違反じゃないか。」 訝し気な顔のジョアンヌにそう言われると、野栄は申し訳なさそうに眉を下げ言葉をつづけた。 「すまないね。…実は、ひとつは……今日は、彼女の命日なんだ。」 「ナディアさんの命日…って、ちょ…野栄さん、どこに行かれるんですか!?」 おもむろに立ち上がり店を飛び出す様子に驚いたように声をあげるサリュ達をよそに、野栄は何かに背を押されるように、ただ黙って導くように、先程貴方達が帰ってきた道を進んでいく。 「待ってくださーい、野栄さーんっ。…あ、あれ?もしかしてこの道って…」 「うん、多分そうな。」 リモとイブキの思った通り、たどり着いたのは先程二人が捜索をしていた、一面黄色の菜の花畑だった。 しかし、その丘の上には、先ほどは無かった人影が一つ。 そして立ち止まった野栄は少し躊躇ったように視線を伏せたてから、顔をあげ静かに口を開く。 「…もうひとつは、あいつが毎年、此処に来ているということ。 ………ビート…っ!」 擦れた声でそう呼ぶと、人影はゆっくりとこちらに視線を向けた。 「……ったく、何年待たせるんだ。馬鹿野郎が…。」 二人は視線を合わせると少しの間をおいてから、小さく笑い、ゆっくりと歩み寄る。 そして、それ以上は何も言葉を交わさず、抱き合った。 十数年の空白などまるで無かったかのように、ごくごく自然に。 その様子には若かりし頃の二人の姿が重なって見えたことだろう…。 決して二人はここで会う約束など交わしてはいない。 けれど、偶然にも毎年、命日の日にはこうして菜の花畑に来ていたのだ。 ルガンはビートが帰った後を見計らってこの丘に登り、ビートもまた、ルガンが後から来ていることに気づきはしても、話しかけようとはしなかった。 …ただ、いつか来るこの日を待ち望んで。 「ぇぐ、ずび…っ…よかったなぁ…おっちゃん!…ずっ…」 「う…うう…っ…うん、うん、よかったです…っ」 「リ、リモさん、また…。陽向先輩も、大丈夫ですか…?」 雰囲気をぶち壊すような二人の泣きっぷりに、困ったような表情のサリュはティッシュを差し出しながらリモの背中を軽く撫でてやる。 「ったく、男が泣いてばっかりでだらしない。…でもまあ、これで気持ちよく帰れるね。」 「うん。切っ掛けって大事な。二人が無事に仲直りできてよかった、な。」 ジョアンヌは呆れ顔から清々しい笑みへと変わりそう言うと、イブキも表情を緩め小さく頷き、再び頂上の二人へと視線を向けた。 ルガンとビートの間をすり抜ける風が、まるで二人を祝福しているように黄色の花びらを躍らせる。 「ナディア……ありがとう。」 ルガンがそうつぶやくと、ビートも頷き、その風の行く先を愛おし気に見つめるのだった……。 ++ こうして無事に”もうひとつの依頼”、”二人の仲直り”を達成し、一仕事…いや二仕事終えた生徒達は、バーに戻りしっかりと美味しい食事をご馳走になった。 カウンターの向こうに飾られる写真立ての中のナディアの視線は、温かく柔らかな笑顔で皆を見つめていたのだった…。 |