想い出を探して

プロローグ
ペクトライトの港、漁師たちの賑わいを横目に依頼主との約束の場所。
『準備中』と書かれた古びた一軒のバーの扉を開く。
シンとした店内の奥のからは、ふわりと魚介スープのいい香りが漂ってくる。
カウンターに立つ、白髪交じりの男性が貴方達に気づくと、目を細めた。

「君たちが神風学園の子かな?いらっしゃい。」

落ち着きのある声で話す男性は、カウンター傍のテーブルに座るよう促すと、温かなお茶を差し出した。

「私が依頼をさせてもらった野栄ルガンという。よろしく頼むよ。
……まぁ、依頼という程の事でもないのかもしれないんだが…。 少しだけ、昔話を聞いてくれるかい?」

そういって少し申し訳なさそうに、語り始める。

「十数年前、最愛の妻に先立たれ、私は酒に溺れてしまった。
そんな飲んだくれの店主でも見捨てない常連がいてね。
それが、私の幼馴染ビートだった。
あの日も、いつもの様に朝から酒を飲み酔いつぶれている私を心配してビートが店を訪れた。」


「なぁルガン、ナディアはお前のそんなくたびれた姿、見たくねぇだろうよ。」
「るせぇな、説教たれるなら他所でやってくれ……。」

「……いい加減にしろ!俺がどんだけ心配してこの店に通っていると…」

「はっ、誰が心配してくれなんて頼んだものか。勝手に見捨ててくれればいい。
俺が野垂れ死にしようと、お前には関係ないだろう?」

「…!!」


「馬鹿な私の暴言についにキレたビートは私の頬を思い切り拳で殴った。
そして、何も言わずに立ち去って、二度とこの店に来ることはなかった。」

野栄はそこまで、静かに語り終えるとコーヒーを口に運んだ。

「お陰で目を覚ました私はこうして店を再開したんだが…。
幸か不幸かビートは娘さんの居るベリルに隠居してしまったお陰で、街で偶然出くわすこともない。
あれから、ビートは一度も店に姿を現さないまま、十年以上もたってしまった。
しかし、年を取るとどうも意固地になってしまってね、仲直り…なんて素直にできるもんでもないんだよ。」

ふぅと大きなため息を漏らす野栄は、ゆっくりとカウンターに戻り、棚に飾られた若き日の自分とナディア、そしてビートが並ぶ写真に一瞥をくれてから、傍に置かれた紙切れを手に取る。

「…最近部屋を片付けていたらこんなものを見つけてね。
三人で埋めたタイムカプセルの地図なんだが、あちこち虫食っていて肝心の場所がはっきりしない。
私自身の記憶もぼんやりしていてね…
数十年も前のものだし、とうに朽ちているかもしれないが。
もしかしたら…それがあればビートに話すきっかけになるんじゃないかと思うんだ。
無茶な願いだとは思うんだが、なんとか力を貸してもらえないだろうか?」

そういって、ボロボロになった地図の様な紙切れをテーブルにおいたルガンは深々と頭を下げたのだった……。