全校生徒より愛を込めて。 エピローグ前編 ◇ イオリが外出から戻り、学園の門をくぐったとの報告が入る。 察しのいいイオリは当然学園の僅かな空気の変化には気づくものの、気にする様子もなくいつもの様に生徒会室へ向かうのだった。 「お帰りなさいませっ」 「ああ。」 生徒会室の扉を開きかけた時、リコリスが声をかける。 小さく返事を返すイオリは、その後ろから追いかけてくる賑やかな話声に視線を向けた。 「あ、かいちょ…ン?神保先輩?ちょうどよかったー!」 「イオリちゃんおかえりなさーいっ♪」 「こんにちは、先輩。」 「お疲れ様です。」 イオリを見つけたラクが歓声を上げ、同時にリモが小さく手を振りながら近づいてくる。 さらに、イブキとミズホが一礼しながらその後を追う。 「見てわからんか…これから仕事だ。雑談なら貴様らだけでしろ。」 「いえ、あの!私たち神保さんに質問がありまして…今後の参考にお話聞かせて下さい。」 「今後の訓練の方向性とか、できれば先輩の意見とか、経験を聞いて参考にしたいんですが。 少しだけいいですか?」 至極面倒そうに追い払うような言葉を返すイオリにミズホが慌てて声をあげる。 そこにイブキが口を開き、何とか場を繋ごうと丁寧に問いかける。 「さっきまで元会長の話をしてたんですよ。」 「そうなの。さっき図書室で過去の依頼とか調べてて、 こんな時イオリちゃんだったらどうするのかな〜?とか…聞いてみたいなって思って。」 「会長、今日の執務は簡単な書類の検印のみですので、お話聞いて差し上げてくださいっ!」 ラクとリモの言葉に、リコリスが後押しするように「私も聞いてみたいですっ」と笑みを浮かべ、生徒会室の扉を開きながら「どうぞ」と皆を招き入れようとして。 「……仕方がない。10分だけだ。」 イオリは大きく息を吐きながら、観念したようにそう言って生徒会室に入ると、手にしていた刀を置き椅子に腰を下ろした。 プレゼント作成係はその後、短い時間であれやこれやと上手く話を持っていき、 なんとかイオリの求める”刀”のイメージを掴むことが出来たのだった。 ◇◆ プレゼント作成係が退室して数分後…ようやく執務に戻ったイオリの元に新たな客人が現れる。 ノックされた扉をリコリスが開くと、ユズキが緊張の面持ちでぺこりと頭を下げた。 「ぃ…イオリ会長ッ!!」 「何か用か。」 先程の質問会のこともあり、イオリは「またか」と言わんばかりの表情で、冷ややかに言葉を返す。 「…ユズ、武装の訓練をしたいのデスが、お手合わせいたたたダケますでしょうか!?」 緊張に声は裏返り、怖さで若干目を潤めながらも竹刀を両手で持って差し出し熱意をこめた視線で訴える。 「…ほう、私に闘いを挑むというのがどういうことか、分かっているな?」 「ひぇ…闘い…というか…訓…練…」 「構わん、相手をしてやろう。」 滅多なことでは実戦を申し込まれないイオリは、口端を緩めて竹刀を受け取ると颯爽と生徒会室を後にした。 作戦は上手くいったものの、自分のしたことの重大さに後悔の色を隠さずにはいられないユズキ。 その足取りはとても重かった…。 「……っし、いっちょやるか!」 廊下の曲がり角でこっそり待機していたヒビトは小さく声をあげる。 気合いを入れ、体の調子を確認するように、最後はトントン、と小さなリズムを付けて軽く跳ぶ。 ユズキとイオリが生徒会室を後にするのを確認すると、部屋に残された刀を取りに忍び込む。 「…って、コソコソする必要ねーじゃん!」 生徒会室に生徒会役員がいるのはごく普通の事、思わず自分でツッコんだ後、あたりを見回し「ふぅ」と息を吐いてから、改めて刀に手を伸ばす。 ……緊張の瞬間。それを手にすると、すぐさま持ち前の瞬発力で駆け出すのだった。 ◇◆◇ 「はぁ、緊張する…。 陽向先輩、神保先輩に捕まらずに無事にここまで来れるのかなぁ」 「ヒビト君なら大丈夫っ!」 校内のとある物陰に隠れ、ひたすらタイミングを待ち続けているサリュとその傍で通りすがりを装って行ったり来たりとしながら周囲の監視をするリツ。 リツはサリュが隠れているのが見つからないよう視線は遠くへ向けているが、心配そうな様子に励まそうと笑みを浮かべた。 サリュは手にしていた白いカーテンで包んだ偽刀をキュッと握りしめてひとつ頷く。 「…わお、さっすがヒビト君!僕出番なさそうだね〜。」 額に手を当てて見えてきた人影、その足の速さに感心しながら小さく肩をすくめ、冗談めかしたリツの声にぴくりと反応して立ち上がったサリュ。 手だけをにょきっと物陰から出して、ヒビトに分かるようにひらひらと振ると、 「…御武運を!」 サリュはすれ違い様に本物と偽物の刀を交換し、素早く白いカーテンでくるむと走り出した。 「サリュもがんばれよ!」 ヒビトは元来た道を走り帰る。 バレないうちに偽物を元あった場所に戻そうと。 後編へ続く⇒ |