校生徒より愛を込めて。
エピローグ後編
◇◆◇◆
ユズキの犠牲の元、偽物の刀が鎮座する生徒会室…。
その生徒会室のテーブルの上にチョコ色のハートマークをアクセントにした、白いカードが突き立っていた。

『*v*チョコレート怪盗参上!*v*

親愛な、神風の生徒会諸君に告ぐか。
愛や恋や甘やかに、浮かれするわ、生徒達の、結び目をほどいた。
嘆きの声を納めたくば探されり我が思い。
さすれば生徒諸君の思いの証は食わじ、とて見つけられねば溶けて消ゆ。』

「何だこれは。」
「…予告状…ですかね。
…そういえば、先ほどチョコレートが盗まれたとかなんとか、話している生徒が何人かいましたが。」

今しがた、ユズキとの訓練を終え気分よく戻ってきたはずのイオリはカードを手にすると不機嫌そうに眉を寄せた。
横からゲラルトが思い出したように言葉を返すと、イオリは「くだらん」そう言い捨て、クシャリとそのカードを握りしめた。
その時。

「わーはははチョコレート怪盗参上!」

と高笑いが聞こえてくると共に、窓の外に白いカードがヒラヒラと振っているのが見えた。
刹那に、ドンドンと叩かれた扉の音に額に手を当てながら、「一体今日は何なんだ。」と呟きを漏らすイオリだったが、お陰で入れ替えられた刀には気づいていないようだった。

「神保先輩!!大変です!!
チョコレート怪盗なる妙な方があちこちでチョコレートを独り占めしていると大騒ぎなんです!!」

「…戯け者めが!
…真砂、今すぐに屋上に行って怪しいやつを捕まえてこい!」

くだらないと思いつつも、直接被害を申し立てられればむげにも出来ず、苛立ち交じりにゲラルトに声を上げる。
そして自分も生徒会室を後にして騒ぎの発端を探しながら特に賑やかしい場所へと足を向けるのだった。
ハチャメチャだが、揺動はしっかり成功したようだ。

◇◆◇◆◇
「…うー、緊張するー…先輩が成功してくれればそんな怖くないんだけど、会長さんこっちきたらヤバイんだよね…」

そわそわ落ち着きなく、所定のポイントで待ち続け、ちらちらとヒナの様子を見たり、辺りに気を配るテオ。

「さ・て・と、さぁーっ9回裏…2アウト満塁。ここで1打サヨナラの場面、って所ね。
延長戦がなければ良いね。」

対して、今の状況を何故か楽しんでいるようにニヤリと笑みを浮かべながら、サインの動作を確認をしているヒナ。
その様子にテオは思わず目を細めて、

「先輩たちってなんでこう余裕なのかな…。
依頼より緊張、身の危険がリアルにヤバイよこっちの方が……」

ため息交じりに呟くが、それでも、ぐっと四肢に力を込めて気を紛らわす。
そして、その時がきた。

「さぁて…乱闘からのホームスチール決めてよ…」

ヒナは勢い良く左手で、口、耳、右ひじ、腰、額と言う順に場所を、のジェスチャーをして見せる。

こうして、華麗な奪取係の連係プレーによって無事に工房へと刀が届けられるのだった。

◇◆◇◆◇◆
「おらっ、小間使い!腰が入ってねぇぞ!」
「腹減った〜、飯まだかよ、ねぇちゃん!」
「肩凝ったぁ〜。なぁなぁ、揉んでくれよ。」

学園御用達の武器工房ではここぞとばかりに生徒達がこき使われ、魔鉱石を取りに行ったり、燃料をくべたりは勿論、掃除したり、ご飯を作ったり、果てにはマッサージまでさせられている。

「もしかして俺たち、一番損な役割なんじゃない?」
「…そんなこと……ありますね。」

ラクが小さくぼやくと、ミズホは頷いてため息を漏らす。

「もう、二人とも、サボっちゃだめだよ〜。」
「現場で作業みられるなんて貴重、な。」

ポジティブなリモとイブキの様子に二人は「ごめんなさーい」と間延びした返事を返す。

「あ、皆さんっ。もうすぐ完成みたいですよ!」
「「「「えっ!??」」」」

リコリスの言葉に皆が目を輝かせ、作業の手を止める。
その視線の先には職人の手で美しく、輝く魔鉱石が刀の柄に新たに埋め込まれていた…。

こうして、見事に生まれ変わったイオリの武装具だったが、元の場所に返すまでが作戦。

「あれ、ところでどうやってコレ届けるんです?」
「やだ〜、奪取係の人達帰っちゃったよね。」
「盗んだのバレたら結局怒られる、な。」
「ハハ……やっぱり俺たちが一番損な役。」
「こ……ここは、作戦を新たに練りましょう!」

五人が新たな作戦会議を繰り広げようとした矢先、とても良く通る、聞き覚えのある声が工房に響き、扉が開かれた。

「失礼する!」

恐る恐る振り返れば、そこに立っていたのは鬼…ではなく、静かな怒りの炎を纏ったイオリの姿だった。

「「「「「ごめんなさーい!!」」」」」

躊躇う間もなく、頭を下げた五人はその後じっくり問いただされるものの、全貌を知ったイオリがそれ以上彼らを咎めることはなかった…。

◇◆◇◆◇◆◇
後日。
首謀者である生徒会役員達がイオリにたっぷりと絞られたことは言うまでもない。
こうして全校生徒の汗と涙と愛ある大作戦によって生まれ変わったイオリの武装具は、皆の前でどんな力を魅せることが出来るのか…それはまだ、誰も知らない。

―END―