会長誕生。
休み気分の名残惜しさを感じていた1月、否が応でも訪れる中間テストという名の現実の壁を乗り越えた生徒達は束の間の平穏な日々を過ごしていたことだろう。
そして、迎えた2月…ある日の放課後、それは唐突に告げられた。

「真砂、コイツに決めたぞ。」

「……ああ、あれですね。直ぐに手配します。」

ゲラルトは一瞬呆けたようにイオリへと視線を向けるが、その手元の資料に目を落とすと直ぐに理解した。

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音羽リツ(おとわりつ)
耐術クラス3年
魔術成績:良
武装成績:良
素行:良
特技:音楽、歌
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「なんと言うか、会長と比べると……普通ですね?」

「…貴様、私程の優れた者がこの学園に二人と居ると思うのか?」

「いえ…。」

そう即答する言葉の裏に「そんなものいたら嫌だ」という本心を隠しつつ、この時のゲラルトには何故彼女が選ばれたのかはハッキリと理解できなかった。
彼女に会うまでは…



「音羽リツです!この度はご指名ありがとうございます!!
イオリ会長の後任だなんて恐れ多いですけど、精一杯頑張りますっ!」

淡い緑色の緩やかなショートヘアがふわりと揺れる。爽やかな笑顔と、快活な口調。
まるでそこに春風のような、柔らかく温かな空気が流れ込んだようだった。
イオリとは全く別のタイプだが、ゲラルトは会った瞬間、イオリが何故彼女を選んだのか理解した。
その、屈託の無い笑顔と空気はどこか人を惹き付けるオーラを感じさせる。
カリスマ性、というのだろうか。
騎士学園会長のミカドにもあるが、それとはまた違うものだ。

「へえ、面白い。」

ゲラルトは思わずそうつぶやいた。
隣に居たイオリはそれを見て小さく息を吐きだし、口端を釣り上げた。

「さて、副会長と書記、会計については引き続き3人についてもらう。異論は無いな?」

「はい!このリコリス、精一杯任務を全うさせて頂きます!」

「んなことより俺まだ会長に勝ってねーもん!時間ねーんだしさ、今から勝負しよ!勝負!」

「……異議あり、ありです。会長が会長だからこそ俺は副会長に就いていたんです。
それに辞めるのなら強制権もないでしょう?」

当たり前のように淡々と告げるイオリに対し、快諾するリコリスとそんなことに関心すら持っていない様子のヒビト。
一方、いつも静かなゲラルトに限ってすぐさま異議を申し立てる。

「ほう?随分と慕われたものだな。…しかし、私が決める事に貴様が拒否する権利は無い。
…拒否したくば自らその権利を勝ち取ることだな。」

「いいでしょう!俺だってただ貴女の下に就いていたわけでもないし、
副会長に拒否する権利が一回ぐらいあっても構わないはずだ!」

「えぇ〜?!二人だけでずりー!!俺も俺も!!!」

「…え?!えっと、イオリさん?ゲラルトさん…?
ちょ、ヒビト君まで……え、ええー?!リコちゃーん、止めてくださーぃ!」

慌てるリツを他所に、火の付いた二人はそそくさとグラウンドに移動し、嬉々としてそれを煽り立てるヒビト。
こうしてイオリとゲラルト初めての一騎打ちへと発展するのだった。

結果は勿論、言わずもがな。

後にゲラルトの勇姿は、”生徒会の変”と語り継がれたとかいないとか……。
何はともあれ、こうして次期生徒会が始動するのだった。

<ススム>