深紅淡青
それは去年の秋の事。
放課後の誰もいない教室の一角、一人静かに本を読む少年がいた。
僅かに開かれた窓から流れる風で、涼やかな水色の髪が時折揺らいでいる。

―ガタンッ

勢いよく開かれた扉の音で静寂は破られた。
しかし、少年はほんの僅かに視線を動かしたのみで本を読み続けた。

「おいユキ、聞いて驚くな。これから面白いことになりそうだぜ?」

扉を開けたのは、『ユキ』とは対照的な燃えるように赤い髪の少年だった。
彼の勢いとは反してユキは本に視線を落としたまま、静かに口を開いた。

「…そう、君はいつでも面白そうだけど。
 この時期なら会長に選ばれた、とでも言うのかな。」

ただ相槌を打つように応えるユキに対して、まさに図星を刺された赤髪の少年は呆気にとられた。

「………。お前、とうとう人の心まで読めるようになったのか。」

驚きと共に、少しばかりがっかりしたように声を落とし、ユキの前の席に腰を下ろす。
ユキは眼鏡のガラス越しに僅かに目を細め、小さく息を吐くと、ようやく読んでいた本を閉じ眼鏡を外して顔をあげた。

「否、人の心は読めないから面白いんだ。君が会長に呼び止められて生徒会室に同行するのを見て、会長選抜の時期だったな。、、という簡単な推察。」

ユキの言葉に「ぁぁ」と納得の声を漏らした後、感心した様子で表情を緩めた。

「成程。流石だな、そういう冷静な思考が俺には必要なんだ。
でだ、その通り次期会長を引き受けてきたんだが、勿論、一緒にやるだろ?」

そんな赤髪の少年の問いかけも推測していたのだろう、ユキは人の良さそうな笑みを浮かべて応える。

「面白いものには興味がある。けど、ただ…」
「”ただ働きはしない主義なんだ。”だろ?生徒会に入ることがお前にメリットがないとは言わせないぜ?」

ユキの言葉に被せるように赤髪の少年がそう言うと、ユキはぱちりと双眸を瞬かせた。

「…君は出会った頃と何も変わらないな。」
「そうか?…けどまぁ、人と人が影響しあって変化しないものなんてないさ。
俺とお前の関係も、いい意味で変化してるだろ?」

「どうかな、ギブアンドテイク、俺は利益のないものには興味ない。
カイ。君は一緒に居て飽きないから、一緒にいる、ただそれだけだ。」

「へいへい、ユキは素直じゃないところは変わらないな。」

さらりと冷めた物言いで返すユキに対して、赤髪の少年『カイ』はその温度の違いを寧ろ楽しんでいるように目を細め口端を釣り上げると、クシャリとユキの髪を撫でつけた。

「…気持ち悪い。」

頭に乗せられた手を少し受け止めるも、冷ややかにそう言って手で払いのけると、軽く顔を背け読んでいた本を片手に立ち上がった。
カイは可笑しそうに小さく肩を揺らすと、それに合わせて立ち上がり、結局は二人そろって教室を後にするのだった……。

――――数日後、校内にて正式に次期生徒会役員が発表されることとなる。

●年度 新生徒会役員

会長:炎龍カイ
副会長:氷華ユキト
書記:******
会計:******
庶務:******

以上の者を任命する。