ミッションインポッシブル
その日、志水シュシュは落とし物を探す依頼を受けて【虹の湖】に来ていた。

「うええ、ぜんぜん見つからないよ〜…。」

湖傍の湿地帯で、泥だらけになりながら依頼の品を探しているのだがその広い場所から小さなネックレスを探すという不可能に近いミッション。

「…依頼主さんすごく困ってたもん、見つけてあげたい。……けど………、
 むーりーーーーーーッ!」

その途方に暮れた叫び声を聞きたまたま通りがかったレンジュが草むら覗き込んだ。

「志水さん?何してるんです…!?」
「ふえぇぇ…レンジュさん!?…うう、助けてくださいいぃぃ」
「ひえええ!?!」

レンジュは近づいてくるシュシュのまるでゾンビのような姿に思わず一歩引きながら悲鳴を上げてしまった。



ひとまず湖の浅瀬で泥を洗い落とし、水分補給がてら休憩をすることにした二人。

「…なるほど、では昨日依頼主さんが大事なネックレスをあの湿地に落としてしまった、と。」
「そうなの…でも、もう3時間も探してるんだけど見つからなくて…」
「まぁ普通に探したらそうですよね…」

これは難題だ、と留守は眉を下げ困ったように空を見上げた。

「…あ」

と、留守が突然ひらめいたように声を漏らす。

「志水さん、何とかなるかもしれませんよ。」

留守はニコっと笑う。シュシュはきょとんとした様子で小首をかしげた。

◇◇

―グワァァ!!!

あれから1時間ほどたった頃、何故か二人は魔物と対峙していた。
湿地に屯している体長50cmほどの小型のワニのような魔物を4〜5体ほどを相手にしている。
よくみればその中の一匹は口に何かキラキラしたものを咥えているようだ。

「レンジュさん!愛発動しました気にせずガンガン行ってください!」

「ありがとう、行きます!!」

レンジュはシュシュの愛のお陰で襲い掛かってくるワニたちをものともせず、全力でヘイタスウィッチを繰り出した。

―ギャァァ……

「やった…全部倒した?」

「そうみたいです……はっ…志水さんっ、早く回収しないとまた沈んじゃいますよ!」

「あっ、そうだった!」

シュシュは慌てて魔物の消滅した場所から何かを拾い上げた。
あたりにはなぜかキラキラした宝石や瓶のふたなどが散乱している。

「これ、だぁ………留守さん、ありがとう…シュシュ一人じゃ絶対みつけられなかったよ〜」

「いえいえ、お役に立ててよかったです。」

「でもすごいねぇ、あの魔物がキラキラしたものを集める習性があるなんて知らなかったよ〜」

「俺もたまたま別の依頼で知ったんです。しかも、あの魔物の討伐依頼受けてたんで、一石二鳥で、こちらこそ助かりました。他にも持ち主が居そうなものとゴミは回収しておきましょうか。」

そういって二人は周辺を綺麗に片付けると、気づけば全身泥だらけ、手足は勿論、顔や髪にまで泥がついていた。

「だいぶ汚れちゃったねぇ…このままじゃ馬車も乗れなさそうだし…
…あ、そうだっ。この近くにね、温泉が湧いたんだって!いってみよーよ!」

「それは初耳です、が、えーっと…」

流石に急に裸の付き合いとなると躊躇うものがあり、レンジュが口ごもっているとシュシュはぐいとその手を取り

「だいじょうぶだよ、シュシュがおごるから!」

「や、そういうことでは…志水さーんっ。」

半ば強引にシュシュに引き連れられ、レンジュと二人で温泉に入ることとなるのだった……
在学中はそれほど接点がなかったものの、二人はこれをきっかけに随分と距離が近くなったのだとか。