深紅と淡青2 留学から帰り、期末テストを終え、バタバタと卒業式を迎えた生徒達。 今しがた先輩方を送り出し、生徒会役員は後片付けに追われていた。 「なぁユキ、お前卒業したらどうすんの」 炎龍カイは話しかけながら、片付けていたはずの椅子の向きをくるりと変えて背もたれを抱えるような体制で座り、ユキこと氷華ユキトを見上げた。 「仕事しなよ」と静かに告げながらも、ユキトは紅白幕を外す手は止めない。 「そういえば、実家に戻れと言われてるんだっけ…?」 「俺が戻ると思うか?」 答えを分かったうえでわざとらしく問いかけてくるユキトに対し、カイは軽く双眸を窄める。 「選択肢の一つとしてはあるだろ。家に戻って貴族として生きるのもいい。 自分自身の力を認めさせる―今回の一件で、充分目的は果たしたんじゃないの?」 「ん〜〜……そうは言っても…。」 カイは暫く小さく唸りながら顔を伏せる。 そして、 「やっぱお前と一緒じゃねーと面白くねーじゃん?」 ぱっと顔をあげ、口端を釣り上げて言った。 「家のことは兄貴たちが上手くやるさ。認められたって言っても、一度は匙を投げたんだ。 少しくらい自由にしたって文句言われねーよ。 言われたとしてもだ、今以上に価値のあることをやればいい。だろ?」 「俺が断る、て発想はないんだ?」 「ない。…て、ユキ。俺の質問に答えてないぞ」 いつの間にか紅白幕は綺麗に畳まれており、てきぱきと片付けを進めるユキト。 『お前卒業したらどうすんの』と聞いたはずなのに、いつの間にか自分の話になっていたことに、カイは怪訝そうに首を傾げる。 「俺は変わってないよ。」 「というと?」 「最初に話しただろ。元々、なにかしらビジネスを始めようかと考えていたけど、そのためには先頭に立って動く相手と、人脈が必要だ。特に”貴族”の人脈はおいしい」 「……ん?」 「そう簡単に作れるものじゃないのに、俺は友人に恵まれたな。その友人も、”家族”に認められて一安心だ」 「……ユキさん?」 「無理強いはしない主義でね。カイが”自ら”望んでくれてよかったよ」 穏やかに微笑むユキト。 カイは何故か、ひやりと冷たいものが背筋を流れたような…そんな感覚に一瞬陥る。そして次に込み上げてくるのは、面白さだ。 ぶはっ、と可笑しそうに笑うと、にぃっと白い歯をのぞかせて言った。 「これからもよろしくな」 ★炎龍カイ&氷華ユキト 卒業後、ユキトと共に事業を立ち上げる。 初めはハンターの傍ら、各地から仕入れた商品の売買を行い次第に新しい商品の開発なども手掛けた。 カイの貴族としての人脈と持ち前の発想力とコミュニケーション能力、ユキトの冷静な判断力と先見の明を武器に瞬く間に世界有数の実業家として知れ渡る。 |