2019学園祭【白茸姫とツンデルとグレーテル】



【キャスト】
白茸姫…山田ラク
ツンデル…柊テオ
グレール…鈴木ナナシ
王子…陽向ヒビト
魔女…遠藤ミズホ
心優しい家来…晴嵐ナツキ
小人たち…鳳リュウゲツ、小鳩ユズキ、芳野サリュ、
幾世リモ、一式ユイト、神楽イブキ

脚本、監督:音羽リツ



― あるところに『白茸姫』というとても美しいお姫様がおりました。
ある日、姫の母上が亡くなって、新しい女王がお城に来ました。
ところがこの女王は国を乗っ取ろうとする悪い魔女だったのです。
誰よりも美しく変身した魔女は疑われることもなくひっそりと事を企てておりました。

その女王は世界で一番美しいことを願い、毎日鏡に向かって誰が美しいかを問いかけるのが習慣でした ―


動くたびに表情を変える黒のマキシ丈ドレス。
ショールが付いたティアラを被り大きな鏡の前に立つ絶世の美女。
国王の後妻として遠い外国からやってきた、という女だ。

「ふっふっふ、おーほっほ!
 この国でいっちばん人気の女王になったからには、
 あーんなことや、こーんなことも、楽しみだわぁ」

女王(ミズホ)は黒いレースの扇子で口元を覆い高らかに笑った後、パチンとそれをたたんだ。

「…さて、と。鏡よ鏡?
 この世でいちばん美しいのは誰かしら?」

問いかけると、鏡はぐにゃりと鏡面を歪ませ、刹那、それはそれは美しい娘『白茸姫』の姿を映し出した。

『この世で一番美しいのは、白茸姫です』

女王は予想だにしなかった鏡の返答に、まるで雷に打たれたような衝撃でよろめいた。

「まさか、そんな…。
 あのキノコみたいな、いけ好かない小娘に負けるなんて…。」

怒った女王はすぐさま家来(ナツキ)を呼びつけた。

「ああ美しい女王様、お呼びでしょうか。
この家来、あなたのためならばたとえ日の中水の中、ドラゴンの口の中でも立って入っていきましょう!」

女王は家来にすがりつくように駆け寄り、目を見開いて言った。

「あの小娘さえいなければ、この世は私のものなのよ!
 アイツを殺して、証(あかし)をもってきて頂戴!」

「ご安心ください。白茸姫なんてちょっと透明感があって、
肌がマッシュルームみたいに白くて、髪は秋の紅葉のような赤褐色で、おでん出汁みたいな美味しそうな琥珀色の目をもってるってだけの、ぴちぴち十代女子じゃないですか。
腰つきなんてまだ全然エノキタケみたいだし、女王様の方が大人の美女、この世で一番に決まってます!」

熱心に、やたら熱心に保証をすると、その場で恭しく跪き。
「女王様の世のために…」と君命を受けその場を後にするのだった。



「あ〜、美少女殺すとかもったいな〜もったいな〜。
美魔女あんど美姫のつーとっぷで世界取ったればいいのに〜。
と、白茸姫の部屋まで来たなっと、
どうやって森まで誘おう…茸狩り?トンボ獲り?魚釣り?化石発掘?遠乗り?小人さん探し?盗賊退治?
…なんかピンと興味を引けるまで粘ってみるか…」

調子の良いことを言って女王の部屋からでてきた家来だったが、白茸姫の元へ向かう間ぼやきながら、彼女の好きなことはなんだっただろう…と頭を悩ませていた。



つま先を隠すほどの丈の長い、茸風パフスリーブの白いベルラインドレス。
舞茸のように流れる髪の毛を揺らす白茸姫(ラク)。
随分と急ぎ足の家来に追いつこうと早足で腕を伸ばした。

「ねえ、少し速いわ。」

袖口に触れて留めながら、無邪気に笑って首を傾げた。
『茸狩りに行く』という話に乗ってきた白茸姫、家来はぐんぐんと歩き続け…もう随分と城からは離れたようだった。

「ごめんなさい。
 でも、城からも大分離れられたわね…
 あなたの前では、おかあさまもちゃんとお休みされているのかしら?
 私がいると、あーんなことや、そーんなことができないみたいで。」

袖を掴んだことを詫びておいて、困ったように身を捩り「寂しいわ…。」と呟いた。
引き留められた家来は不意に身を投げ出すように白茸姫を振り返り

「あ〜〜〜〜白茸姫!
俺はもう黙っていることはできません。
実は女王様が、鏡に姫の方が美しいと言われたことに心の炎を燃やし、姫を殺せと俺にお命じになったんです。
でも俺にはあなたを殺すことは出来ません。
けれど殺した証拠を持って帰らなければ、女王様は姫をどこまでも追ってくるでしょう。
美の価値など人それぞれ、心に大輪の世界征服を咲かせていれば、女王様はいつまでだってお美しいに決まっているのに、今は目前のアンチエイジングに目を取られ、勿体ないことです。
ですから、ここはお互いのため、俺は姫を殺した振りをして獣の心臓を持ち帰りましょう。
白茸姫はどうかしばらく森の奥深くへと身を隠し、望むならば平穏を望み、華麗なる返り咲きを目指されるなら目指されなさいませ。
俺は美しい人が咲き誇る瞬間を見ているのが好きなのです」

白茸姫は驚いたように彼を見上げると、徐々に悲しそうになり両手で口を押さえる。

「おかあさまが…っ?
 そう、…そう、そうだったのね。……。
 わかったわ。きっとあなたも大変な決意だったでしょう、
 あなたのほうこそ気をつけて。」

家来は白茸姫に「まず森で逞しく生き抜かれませ〜あなたならできる〜」と別れの言葉を告げ姫から受け取った彼女のショールと、今しがた捕まえたシカの心臓を手に城へ戻っていった。


「この国と、女王陛下のこと、頼みます。」

家来の背に思いつめたように告げると、今は見えない城を見上げて唇を引き結び見送った。
それは沈黙を守って国の平穏を望むという意味だ。
そして彼がいなくなってから、白茸姫は独り誰もいない森の奥を見据えて泣き伏すのだった…


一方王城に戻った家来は血に汚れた白茸姫のショールとシカの心臓を恭しく女王に差し出し、姫を殺したと告げる。

「そう…ご苦労だったわね。
これでこの世は私のもの!!
ふふふ、あーはっはっはっは!」

城には女王の高らかな笑いが響き渡るのだった。

◆◆

― 同じ頃、同じ国、白茸姫の居た城下の果ての果て。
とても貧しい家に『ツンデル』と『グレール』という双子の兄弟がおりました。
二人は貧しくも家族仲良く暮らしていましたが、明日の食事もままならないそんな生活…ある日、両親は身を切るような思いで眠っている二人を森の奥深くに置き去りにしたのでした。
二人が目を覚ますと、そこは暗い森の中。
どこからともなく狼の遠吠えが聞こえてきます。
自分たちが何故そこに居るのか考えるよりも先に感じる恐怖にただ二人は歩きだします。
何処へ行けばいいのかもわからないまま必死に歩き続け、彷徨い続けると、ふと鬱蒼とした森に光が灯って見えました。その先には、こじんまりとした、けれどもとても温かな家。
二人は迷うことなく、すがる思いでその扉を叩きました ―



木の根元にスヤスヤと眠るツンデルとグレールの姿。
少しの間をおいて二人は目を覚まし辺りを見回す。
不安を掻き立てるような森のざわめきや狼の遠吠えが聞こえてくる。

双子の弟、グレール(ナナシ)はむっくり起き上がると、周囲を警戒するように見回し「兄貴、おい兄貴ってば」と兄のツンデル(テオ)を揺り起こす。

「とうとう俺ら、文字通りあいつらに捨てられたっぽいんだけど?
 どーすっよ?ここにいたらマジで餌だぜ?」

「マジかよ…食うに困るような家族だからいつかなんかやると思ってたけど寝てる間に森に放置プレイとかヤバくね?時代の流れ的に。あの親ども空気読めないから食うに困ってたんだろーけどよー。」

二人はグチグチと言いながら森を彷徨った。
ふと、森の奥に灯りが見える。
ツンデルは顔を明るくし、「あ、アレ家じゃね?!」と叫んだ。
グレールがその声に顔をあげると、そこにはこじんまりとした木の家が建っていた。

「よし、とりあえず狼の餌にならずに飯が食える。そのまま夜も寝床を借りて、明日も世話になって……」
「ごめんくださーい」

二人は迷わず木の家に向かうと、ツンデルはドアをノックしながら声を上げる。
その直後…

「……ぁぁぁああああ狼来てる超来てるヤバイヤバイ早く入れてマジ助けてお願いします俺ら親に森に睡眠放置プレイ喰らって歩き回って腹減ってて死にそーなんです狼に食われて死ぬなんて嫌だ早く入れろー!!!」

実際のところ近くに狼は見えないのだが…オオカミ少年、もといグレールは必死の形相(のフリをして)何度も扉を叩きながら叫んだのだった。



一方小屋の中には湯気のたちのぼる温かなスープ、キノコの料理やパン。
コップには赤い飲み物。
あたらしい仲間の白茸姫をもてなそうと、めいめいに話しかけているようだ。
料理用のかまどには、明るい炎が灯っている。
室内を照らす灯りは、楽しい空気ばかりを膨らませるように、夜を押しのけている。

歌を歌いながら踊っていた小人のひとりが、扉を叩く音に気づいて駆け寄った。
翠色のワンピースに、三角フードつきのケープを着た小人(リモ)だ。
小窓から二人の姿を確認すると、驚いた顔で口元に片手を添えた。

「ねぇ、私の兄妹、家族たち!
さみしい外に、ふたりをおいてはおけないよ。
夜をうろつく獣たちに連れて行かせるなんてとんでもない。
かわいらしいふたりには、あのこのような笑顔が似合う。」

「はいほー、寒い中に放っておくのは確かにかわいそう。
さぁ、お客さ、ん…?」

―バッターン!!!!

軽快にステップふみつつ、扉を開けようとしたところで吹き飛ぶ扉に青色小人(イブキ)は目を丸くした。

「あら、まあ。
 今席をあけますわね。」

その様子に白茸姫はのんびり笑って立ち上がり、席にいる小人たちにアイコンタクトをしてツンデルとグレールが座る場所を作るように促した。

「そ、そうだね。
お外は寒かっただろう、中に入ってあったまるといいよ!」

「わぁ、大変だったね!
狼はとっても怖いし、森も暗くて寂しいけれど、この家はいつでもハッピーだよ。
お客様なら大歓迎!!
さぁさぁ、皆仲良く食べて踊ろうよ♪」

桃色小人(リュウゲツ)についで、黄色小人(ユズキ)が踊るような口調でそう言うと、にっこりと笑って二人の腕を弾いて中に引き入れ温かな食事の前に座らせようとした。

「……っ、は、はい!
いいとおもいます!! いいとおもいます!!」

そして最後に小人たちや姫の言葉に全面的に、ただひたすらに肯定する灰色小人(サリュ)がそこにはいた。
そんな彼らの温かな出迎えに、ツンデルはわざとらしい声で、両手をスリスリ合掌から広げて入ってくる。

「やあやあ、ご歓待ありがとうございます。
先の通りうちら腹空かしてまして、こんなメシいただける?
いやー!ありがたい!いただきますわ。」


・・

「・・・やふー、扉が壊れてるとさむくなる、なー」

青色小人はツンデルとグレールを中に迎え入れた後、ひっそりと扉の修理をしているのだった。



― ツンデルとグレールから事情を聞くと、個性豊かな小人たちは其々に意見を述べ二人を温かく招き入れてくれました。
偶然にも同じ場所にたどり着いていた白茸姫は二人の貧しい暮らしを聞いて、この国の貧富の差を嘆きましたが、今は何も力のない身、ただ二人の笑顔が見られるように努めようと強く願うのでした ―

◆◆

― こうして三人と小人たちが仲良く幸せに暮らし始めたのもつかの間のこと。

白茸姫が居なくなった王城。
女王は心優しい家来の妨害おかげで鏡の前に立つことから遠ざけられていましたが、それもいつまでも続くわけはありません。
ある日のこと、久々に鏡の前に立ち心躍らせながら鏡に問いかけると、思ってもみなかった答えが返ってきたのです。
「世界で一番美しいのは、白茸姫です」と…


白茸姫が生きていることしった女王は家来を呼びつけ怒りを露にすると、その場で家来を殺してしまおうとしますが、思いとどまり、もう一度チャンスを与えることにしました ―



ご立腹の女王の部屋に呼び出された家来は一巻の終わりとばかりに青ざめていたが、すぐに開き直ったように口を開いた。

「く。ばれてしまちゃあしかたがねぇ。
白茸姫を逃がしたのはこの俺よぉ。
煮るなり焼くなりすきにしろぉい!
あ、でもカエルになって女王様とロマンスそんな路線もいいなって思います。
白茸姫だってこのまま小人や双子と森で暮らして、ゆくゆくはどっちかのお嫁さんになって平和に庶民な生活を送ればそれでいいじゃあないじゃないですか!
そっちの方が、『フ、所詮下民が』って勝ち誇った気分になれるじゃないですか。
すべてはひとえに女王様の為だったんです〜
なんでも致しますのでおーゆーるーしーをー。」

家来の自白なのか願望なのか欲望なのか、いや命乞いなのだけども。
そんな台詞を聞いてあきれ顔を見せる女王は

「……。あなた、なかなかに性格悪いわね。」

と嘆息したが、「この性格の悪さ、生かせば使えるかもしれない。」とぽつり呟いてはニヤリと悪い笑みを浮かべる。

「そうよ、あの双子も、良い感じに使えるかも知れないわ。
 ナツキ、チャンスをあげましょう。
 あの双子を魔法の家に呼び寄せなさい。」

女王は魔法で作った家にツンデルとグレールを誘い出すように命じ、
今度は事情を説明することが出来ないよう、家来を魔法でシカの姿に変えるのだった。

「ケ、ケーン!?」
「さぁ、早くお行き!」

シカとなった家来は恐ろしくなって、急いで森へと走りさる…

◆◆

― ようやく小さな幸せを味わっていたツンデルとグレール、そして白茸姫…
彼らに魔の手が近づいているなどと思うはずもなく、いつものように小人たちは森へ木こりの仕事と食料の調達へ…、ツンデルとグレールは川に洗濯と水を汲みに、白茸姫は食事の支度をしていました ―



「いやー俺らも真面目に仕事しちゃって、みんなと仲良く暮らしてるとか想像もしてなかったけど、案外いいもんだ。けどよー、こう、刺激がたんないんだよなー。刺激が。」

「うん?…………………え?」

ツンデルとグレールが川で洗濯をしていると、川向うでシカが水を飲んでいることに先に弟のグレールが気が付く。
まるで恋に落ちたかのような顔で持っていた洗濯物を落としたグレール。

だるそうな様子で洗濯をしているグレールを横目で見ていたツンデルだったが、ふと目の色が変わったことにぱちりと瞬くと、同じように視線を川向うへとむけた。

「は?どうしたグレール……っておい、マジか、逃がすなよ!?」
「今晩の…肉料理は、鹿肉だぁーいッ!!!(ハート)」

シカはまるで二人を呼んでいるようにじっと見つめた後、ゆっくりと背を向ける。
(やべぇ、捕まったら喰われる)

双子の狩猟担当(?)グレールは後先考えずに鹿を追い走り出した。
ツンデルもバケツや洗濯物を放り出していこうとするが、しかし、ふと思い立ち…

「ここでそのまま追っかけてったら帰ってこれなくなることぐらいわかってんのよツンデルさんはよー。
だが、仕事終わったら食おうと思ってたこのパン!これをちぎってだ、道すがら目印替わりに置いていけば、またここに帰ってこれるってーすんぽーよ。」

ここよここ、と頭を何度か指さし、パンくずを撒きながら弟の後を追うのだった。



― 二人は何故かとても心惹かれ(食料的な意味で)、シカの後を追うことにしました。
もう二度と森で迷子にならないよう、おやつに持ったパンをちぎって道しるべに落としながら…

しかし、二人が見えなくなると、残ったパンくずを森の鳥たちが残らずすべて食べてしまい道しるべは無くなってしまうのでした…―



― シカの後を追ってやってくると、なんとそこには窓から煙突まですべてお菓子でできた家が建っているではありませんか。
二人は驚き胸躍らせてお菓子の家に食らいつきます。
それが魔女の罠だとは知らずに… ―



「……え、何。これ全部お菓子?マジで??」
「こりゃすげえ。
 ……売りさばけるんじゃねーの?」

追ってきた鹿のことなど忘れてしまったかのように、茫然とお菓子の家の前で立ち尽くす。
それもつかの間、住居侵入どころか家屋損壊ペースでお菓子の家を食べていき、高く売れそうなお菓子は丁寧に外すという計算高さ。

「いやすげぇなグレール、これ持ち帰り切れないぞ。」

お腹いっぱい食べたあと、ついでに白茸姫や小人たちにもお土産に持っていこうとポケットに詰めるだけ詰めて帰ろうとしたその時。

―ガシャーン!

二人は檻に閉じ込められてしまい、刹那、
そこに勝ち誇ったように笑う醜い老婆が現れたのだった。

「ひょーっひょっひょ!
なんと向こう見ずな子達だろうねぇ!」

「なんだよババァ。
あ、何もしかしてこの家の持ち主?
わりーけどもうここ俺たち兄弟のもんだから。
悪いね。ってわけでこっから出せよ。」

「お前達は人質さ!お姫様はお前達を助ける為に、この毒キノコも食べてくださるだろうよぉ!」

老婆はそう言って、見るからに毒々しい毒キノコを掲げて見せた。

「…うっわ、まじかー。そんな陰湿なことしてんなよ。
あれだろ、こういうの、老害っていうんだろ?
やだよなー前途ある若者に未来を任せられないタイプ。
それに人質っつってもよー、俺ら助けてもらった側だし、あの人ら何にもしてくんないんじゃねーの?だから俺たち人質の意味ないし、出してくれよ。」

ほれほれ、と檻を開けるように促しながら、持ち帰り用だったお菓子を取り出しては食べていた。 真剣味ゼロである。

「信じなくとも良いさ。ゆっくりしてお行き。」

◆◆

― こうしてまんまとツンデルとグレールを捕らえた魔女は、満足そうに毒キノコを片手に白茸姫の待つ小人の家へと向かいました。
小人達が留守なのを確認すると、扉をトントンと叩きます。
魔女は不気味に笑い、毒キノコを片手に、姫の命と引換に二人の自由を約束すると言いました―



「こんにちはぁ♪白茸姫。
 今日はあなたにプレゼントを持ってきたのよ。」
「あなたは?プレゼント…?」

老婆のしゃがれた声に白茸姫は扉を少しだけ開いてその姿を確認する。
あまりの怪しさに直ぐに扉を閉めようとドアノブに手をかけるが、引き留めるように老婆が口を開いた。

「そうそう、あの元気な男の子の双子ちゃん達、
 名前は…ツンデレちゃんとグレ男ちゃんだったかしら?
 どーお?少し帰りが遅いんじゃなくて?
 ふぇっふぇっふぇ♪
 大丈夫、わたしが、二人を自由にしてあげるわ。
 あなたが、これを食べて死んでくれたらの話だけど。」

「ツンデルさんと、グレールさんが…?」

幾つかの疑問の声は、魔女の言葉に驚愕の音色に変わる。

「……わかりました。
 見ていてください、あなたのむすめが、
 あなたの手によって死ぬ姿を。
 そしてどうか………おかあさま!」

震える指で毒キノコを受け取ると、姫は悲しげに両眉を下げ、そして…
毒キノコを口にし、パタリと倒れて動かくなる。
それを見た女王は高らかに笑った。

「これで、この世は私のものよ!!
 あーっはっはっはっ!!」

◆◆

― 老婆は姫が倒れるのを見ると、女王の姿へと変わり、高らかに笑いながら魔法で姿を消したのでした。
そして暫くして、小人達が仕事から帰ってきます。
まるで眠っているように倒れる白茸姫をみて、小人達は悲しみにくれるのでした ー



「仕事の後には姫のスープが身体に沁みるよ。
早く姫の笑顔を見ながら美味しい食事がしたいね。
ただいま、白茸姫。
姫に似合いそうないい匂いの花が咲いていたから、花冠にして…
…おや?」

小人達は小屋の前に倒れる白茸姫をみつけ、駈け寄った。

「あれれ?白茸姫、こんなところでおねんねしたら風邪ひいちゃうよ〜。
 ねえねえ、起きてよう……、ねえ…ヤダよ〜!!起きてようっ!」

「そんな……姫が死んでしまうなんて……。
こんな悲しいことがあっていいのか……。」

「なんという…」

黄色小人ははじめこそにこやかに話しかけていたが、近づき触れると動かぬ体に手が止まり顔を伏せてわーん、と大声で泣き出す。
桃の小人も同じように姫の傍で膝をつき、えーんえーんと拙く泣き崩れた。
灰色小人は愕然とした様子で姫の姿を見つめ、翠の小人は眠るような白茸姫の手をぎゅっと握った。

「姫が死んだなんて嘘よ…
白茸姫が来た日に見つけたこの『見つけたら幸せになれる』というキノコ…。
このキノコみたい…ううん、もっと綺麗だと思ったわ。
…私の、わたしたちの…幸せのお姫様…!」

小人達が嘆き悲しんでいる最中、ツンデルとグレールが約束通り自由の身となり帰ってきました。
高く売れそうなお菓子を両脇いっぱいに抱えていたのを、壊れないように、そ、と脇に置き、どうしたことかと小人達の様子に首を傾けました。
しかし、姫の様子に気付くと手を震わせながら小人達が集まる傍によっていき

「おいおいおいー……ツンデルとグレールの一大逆玉計画が台無しじゃねーの……俺たちがお菓子の家にかかった……じゃねーや、鹿だよ鹿。あのシカについてったからだよ。」

「嘘だろ…?
 俺の…恋に落ちるのは双子のどっちでも逆玉計画
 狙ってたのに…!
 ちゃんとピッキングの道具を持っていれば…!」

ツンデルとグレールは崩れ落ち、悲しみにふけって自分を責めました。

「悲しいのはみんな一緒だよ、今日は姫と一緒に朝まで歌おうよ。」

黄色の小人は悲し気にしかし緩やかに笑って二人を慰めます。

◆◆

― 白い花で満たされた棺には白茸姫が横たわっています。
まるで眠っているかのように、白く透き通った肌も髪も全て美しいままで…。
と、そこに突然馬の鳴き声と蹄の音。
突然現れたのは白い馬に乗った、隣国の王子の姿でした ―



「どっちが早いか勝負だあぁぁぁぁ!!!」

ダダダダッ!!!と力強い足音を響き渡らせ全速力で駆けて行く王子(ヒビト)。
(白い馬―を模したぬいぐるみを纏う馬役の生徒達―は慌ててその王子を後を追ったことか。
白馬に跨る王子ではなく、白馬と競争する王子がそこにいた。)
全速力故に少し息をきらせつつ、「どーよ、俺の勝ちだ」と誇らし気に白馬を振り返る。

そこでハッと気付き……

「そーだ!魔女!悪い奴ぶっ飛ばしに来てたんだった。
 魔女何処だこの野郎!!!」

「え、えっ? ……あ、いえ、魔女はここにはおりません。
ここにいるのは、倒れたまま目を覚まさなくなってしまった姫だけです…」

灰色小人は困惑気味に首をかしげ、王子をみつめました。

「ぇ、なに泣いてんだ??」

不思議そうに小人や双子たちの様子を眺め首をかしげる王子。



― 悪い魔女の噂を聞きつけてやってきたという王子は、白茸姫の美しさに思わず口づけをしました ―



「うんうん、姫の美しさに思わず―――――て誰がするか!!」

― 悪い魔女の噂を聞きつけてやってきたという王子は、白茸姫の美しさに思わず口づけをしました! ―

 「可笑しくね?!俺悪い魔女倒しに来てんのよ?!
 なのに道中眠ってる女に綺麗だからって口付けすんの?!」

― 口 づ け を し ま し た ―

 「王子軽々しいにも程があるだろ!お前の正義感どこ行った?!」

―……(誰か助けて)

「…! 貴方には天の声が聞こえるのですか…?!
王子様、小さな小人のお願いです…
貴方にこの小さいけれど大きな世界の運命を切り開く力があるのなら…
お願いです、姫を、姫を…っ
貴方の正義とその知恵で、救ってください…! どうしてこんなことになってしまったのか… 救いの助けになるのなら、私たちの小さな頭も使ってください」

唐突に翠の小人が王子に懇願した。

「……」

王子の短い沈黙。
翠の小人の視線の動きに合わせて、周囲の面々を振り返る。
『天の声が聞こえる』とか『運命を切り開く力』だとか、救いを求める様な眼差し(?)

「王子様、どうか助けてください!
姫は、まだ生きてるかように、頬はまだ赤くみずみずしい…
きっと魔女の呪いで心が凍って深い眠りについてしまったのです!!
貴方のキスで心が満たされれば目覚めるに違いありません!!

貴方のキス……貴方の…―」

黄色の小人もまた握った拳に力をこめながら王子に乞うが、徐々に頬が赤く上気し……ふるふると大きく首を振っていた。

グレールはひとつため息をつくと、姫の棺まで行き、徐ろに姫にそっくりだとか言うキノコを取る。
ずかずかと王子の傍までいくと、漫才定番のいい音させる叩き方で王子の頭をたたいて、王子の胸をとんとんと指指し、反対のキノコを持つ手で姫の方向を示す。
王子からは「―いてっ!」と思わず声が漏れる。

「ったく、お前が何しとんねんや。
 古今東西、和洋折衷、焼き肉定食
 王子が軽々しいのは今に始まった事やないやんけ。
 物語の王子サマは姫を見つけたら口づけするのが
 癖なの習慣なの礼儀なの。
 一国丸ごとプレゼントかもしれんやから。」

「えぇっ?!王子そんな軽々しいの?!
 癖って、キス魔か?王子キス魔なのか?!
 姫さんの好みじゃなかったらどーすんの?!
 大体!そー軽々しく相手決めちゃうから一国乗っとられたり
 魔女だったりするんでしょーがっ」

グレールに叩かれた頭部を片手で軽く摩りながら、王子も負けじとツッコミ返し。
本当に漫才のようであった。

「なんなら姫の化身に口づけでもええと思うけど?」

グレールは姫の棺から持ってきたキノコを王子の顔の前に差し出し、どこか挑むような視線で口端を吊り上げた。
目の前にキノコが差し出されると、王子は軽く双眸を瞬かせ、

「…ばーか。本人差し置いてキノコに口付けする方が、失礼だっての」

王子は口角をほんのり持ち上げて、不敵な笑みを返す。
意を決したように王子が白茸姫の元へ…

元へ…

「姫っ!どうか目覚めて!」

何を思ったか王子の横をスルリと通って駆けていった黄色の小人が、その勢いのままに姫に口づけをしたのだった。

「・・・・なんという奇跡でしょう!
 小人たちの献身的な愛によって、
 そして、黄色の小人の勇気によって、
 白茸姫は目覚めたのでした。
 “王子の如く”温かい心を持った彼女へ、
 皆さんどうぞ温かな拍手を。」

黄色の小人のキスにより、奇跡的に白茸姫は目覚め、自らエピローグを語った。

「ちょ、ちょっと黄色いの!何しちゃってんの?!
 そりゃ俺よりは色んな意味で嬉しいのかもしんないけどっ、
 王子としての俺の立ち位置が現在行方不明の迷子状態!」

呆然と立ち尽くす王子は困惑気味に声上げたものの、ふとそこで考える。

「…ハッ。つまりアレか。
 最初バラバラだったキャラクターたちが、象徴的だった者の死をきっかけに心を通わせ、
 さらに死んだと思われたその者の奇跡的な復活を受け、再び集結。
 悪の元凶を倒すべく、いざ最終決戦へ!!」

「おー、これで何事もなく俺ら兄弟の逆玉計画が続行できてさらに王子様のお供的な立ち位置もゲット?あっれ、俺ら人生バラ色じゃねーの?」

王子の持ち前のポジティブ思考と、勇者兼王子という本人の勝手設定故な展開にツンデルまでもちゃっかり便乗。
王子はぐっと握り拳を作り、空の彼方を見上げていた……
◆◆

「え!?ちょ、ちょっとまってよヒビト君っ!ていうか、え!?!?
えー…あーあー……ともあれ、皆の愛の力によって姫は目覚めたのでした。」

てんやわんやの舞台の様子に流石のリツも慌てた様子の声が漏れたが、コホンと息を整えると無理やりまとめの言葉を告げると、舞台は再び陽気な音楽が流れる。



―………姫が目覚めたことに皆はじめは驚きましたが、直ぐに喜び、そして歌い踊ります。
こうして、皆の心が一つになったところで、国を乗っ取り姫の命を脅かそうとする諸悪の根源の女王を退治しようという王子の言葉に皆同意します。
しかしただ一人、白茸姫は一時であれ母子として暮らした身、複雑な想いを隠せずにいたのです……白茸姫はその胸の内を静かに皆に語りました ―



陽気な音楽が流れ始め、小人たちが歌い踊り始める。
姫の目覚めを歓喜する、まさに喜びに満ちた温かな雰囲気に舞台は包まれていた。
ほんのり双眸を緩ませ目の前の光景を眺めていたのだが、思い出したように白茸姫に歩み寄れば、片手を差し伸べる。

「姫さまが目覚めたよ!」
「なんということでしょう!姫が目を覚ました!!こんなに嬉しい日はない!!」

小人達は陽気な音楽に合わせて歌い踊る。
ひとしきり踊り終えると、姫が口を開いた。

「待って下さい。
 …おかあさまが本当に私を殺そうとしていたなら、私は間違いなく、今、この場にはいなかったでしょう。
 城の図書室で”心に巣食う茸”の話を目にした覚えがあります。
 寂しさや辛さ、苦しさを苗床にするその茸は、心の中いっぱいを邪悪の菌で覆う”魔物”だと言うのです。」

姫は王子を睨むように強い眼差しで見つめて、
「あなたが強い方だというのなら、お願いがあります。
 おかあさまの心に、僅かでも善の心が残っているのなら…
 邪悪を弱らせて、おかあさまの本心が覗いた瞬間に、誰かが真実の愛を示せば、あの方を救えるのかもしれません。
 私があの方に…あの方だけに女王を背負わせてしまったから…!」

泣き崩れるようにして王子の足元に取りすがり、切々と救いを求め始めるのだった。

「皆さんも己の心の愛を曝け出して下さい。  私を救ったあの心を、どうか、お願い……!」

小人たちに、ツンデルグレールをも巻き込んで空を見上げ、涙を輝かせた。
白茸姫の悲痛な表情にぱちりと双眸を瞬かせ、王子は片手を軽く顎に添え話に耳を傾けていた。

「私…魔女様に魔法を教えてもらいたい…。
このちっぽけな手では、姫を助けることができなかった。
だから…今度は私が姫を、助けられるくらいの力になりたいの…
でもきっと、この心では魔女様を…女王様をお救いすることはできないわ」
「わ、私も女王様に魔法を教わりたいです!
こんなことがあっても泣いているだけなのはもう嫌だから!!」

翠と桃の小人がはそう言って他の面々へと眼差しを向けた。

「そっか」

と暢気にも思えるほどの、軽い声音で王子は言った。
しかし、白茸姫と目線を合わせるべく片膝を地面につけると、

「真実の愛を示すのは、“誰か”じゃない。
 それはお前にしか出来ねーよ。
 だから、俺が、俺達が、お前のかーちゃんのとこまで連れてってやる」

ニッと満面の笑みを浮かべ言った。

「私も、そう思います。
誰かが愛を示すのではなく、ここは姫がそれを示すのが良いかと。
赤の他人な私達が解決する問題ではないですし、私達に出来ることは姫の背中を押したり、励ましたり、手伝ったりすることですよ。」

灰色の小人は熱心に王子の言葉に頷き、姫に微笑む。

「もし姫が心細いなら皆で一緒に行きますから、姫、ファイトファイトですよ!」
「おー!さすが王子様!姫をエスコートして魔女と対面させてあげるんですね!俺らも手伝います!なぁグレール!!」

「灰色さんに同じでーす。」
灰色小人に続き、ツンデルとグレールも頷いた。
彼らの言葉に青色、黄色の小人も同意する。
「愛は求めるもので、愛は与えるもの、
求めるだけじゃあふれてしまって、与えるだけじゃ枯れてしまう。
そのことを魔女様に教えてあげてよ、姫様、王子様!」

「姫が、皆が幸せになる為に私は何でもお手伝いするよ!けれども、魔女はどんな手を使ってくるかわからない。王子様、力のない私達をどうか助けて下さいな!」

少し真剣な眼差しで胸を押さえながら声を張り上げる。

「ありがとう、王子様…
 あなたを信じてお頼み申し上げます。
 いいえ…… あなた方の勇姿を信じて!」

そこで王子、ツンデル、グレール、小人達を視界に収め白茸姫は深く頷いた。

◆◆

― またしても命拾いした白茸姫の姿を魔法の鏡で見ていた女王は、怒り狂い、戻ってきた家来を今度は蛙にかえて今まさに踏みつぶそうとしたとき、白茸姫と王子の一行が現れます女王と対峙します。
白茸姫の願いを叶え、そして、皆の心に、この国に平穏を取り戻すために…
しかしながら簡単に話通じる相手ではないことは明白、女王は魔法の杖を振り上げ、王子は剣を手にします。
そうして王子が女王の喉元に剣先を当てると、白茸姫が静かに願を乞うのでした。
女王は皆の願いを受け入れるのでしょうか… ―



「白茸姫なんてちょっと透明感があって?
 肌がマッシュルームみたいに白くて?
 髪が秋の紅葉のような赤褐色で?
 おでん出汁みたいな美味しそうな琥珀色の目をもってるってだけの?
 ぴちぴち十代女子なだけなのに!?」

「恋した乙女ほど無敵なものはないって言いますしね〜」

鏡の前でわなわなしている女王へ見当違いな台詞を放った家来は「五月蠅いわね!」と女王の八つ当たりの魔法の霧でカエルへと姿を変えてしまう。

「どうしてこう上手くいかないの!」

女王が苛立ちのままに、カエルになった家来を踏みつけようとした瞬間……

「おかあさま!」

白茸姫が王子とツンデル、グレーテル、小人までも連れてやってくる。

「あら、いらっしゃい。」

女王は何事もなかったかのように微笑み彼らを出迎えた。
そして、こっそりとカエルに魔法をかけ家来へと戻していた。

「は!なんだか長くて短い夢を見ていたような気がするゲコ。
これは、おかえりなさいませ白茸姫。
女王様、これはいったい。
決戦ですか?和平ですか?パーティですか?」

家来は辛うじて三度目の命拾いをし、人間の姿へと戻ると、白茸姫一行に一礼した後、きょどきょどと様子を伺う。
女王は「決戦、和平、パーティ」と順々に宙を指差して声に出し、わざとらしく考えるそぶりをした。

「そうねえ、どうしようかしら。
 私は、もちろん和平がいいのよ?
 でも、私の願いは白茸ちゃんにいなくなってもらうことなのよねえ?
 これが達成できないと和平にならないの。

 どれを選びたいかしら。
 ねえ、白茸姫?」

女王の問いかけに白茸姫は静かに目を閉じた。

「…あなたが望むのなら、私は”この国から去りましょう。
 それがこの国でただ一人の女王陛下の願いなら、私はあなたの御世に陰りを射す前にあなたの前から消えましょう!
 けれど、けれど!」

女王は白茸姫が、『誰にも守られない』ことを自ら選ぶという予想外の答えに驚いたように言葉を失った。
白茸姫はなおも言葉を続け、激したように両手を広げて女王のほうへと訴えかける。
たった一人の家族に向けて

「愛しております、おかあさま!
 だからどうか勇気を出して、そして呼んで下さい。
 あなたの善なる心を占める、あなたの愛する人の名を――」

「おお、勇敢なる王子と白茸姫、
鹿鍋好きの双子に楽しい小人の方々…。
城に乗り込んでなお平和を願う気高きお心、まこと美しい
ああ、けれど白茸姫。
あなたが真に女王陛下を愛しているのなら、
ただ、言葉のみでその真心を引き出すことは 美のプライドにかけてできぬこともご存じのはず。
さあ、あなたもまた愛と善の心をもって、 女王様にそのお気持ちを打ち勝つ行動で示されてください!
王国に伝わるでんせつの傘をもって〜〜〜〜〜」

二人の対話に割り込んだ、まるで道化のような家来の台詞。
それに合わせ、兵士達が持ってきたのは、王国に伝わる伝説の武器らしき『伝説の傘(?)』という名の大きな分度器(木製)。
姫は何事かと、一瞬の逡巡のちに家来から半月型の分度器を受け取る。

「ほら、姫様今ですって!ここまで王子様が連れてきてくれたんだ、最後に魔女との一騎打ちで女を見せるところだって!ほらほら!!」
ツンデルの言葉に背中を押され、襲い掛かる女王の魔法の杖(物差し)を、伝説の傘(分度器)で受け止めようとする。
そうして女王と姫が武器を交える最中、翠の小人が王子へと声をかけた。

「王子様、貴方の正義がジャッジです。
姫と女王は心を決めました。
私はなにを置いても姫さまの味方…
他の家族(小人・ツンデルとグレール)たちも己の心に従うでしょう」

今にも女王と姫の決戦の間に飛び出したいのを抑えるように、決意を見守り。
貴方は…?というようにそっと音を紡ぐ。
だがしかし…小人の想いに反して王子は剣を下した。

「魔女が独裁主義で恐怖政治強いてるとか、国民に被害出てるならともかく、
 白茸姫相手にだけ悪さしてるってんなら、さっきの白茸姫の話を考慮すれば、俺がこれ以上戦う理由は無い。
 要は今まで同じような手で国乗っ取って来た魔女が、血の繋がりの無い子供から初めて母親に対するそれと同じような愛情向けられたから、受け入れられてないってこと。
そりゃ経験無いんだから、当然だな」

自分の役目は終わりとばかりに、剣を鞘に納める。
軽く腕を組むようにして、白茸姫、小人を順に見遣り、

「だったら、白茸姫。相手の攻撃をその身に受けても構わない覚悟で、
 歩み寄り、お前のかーちゃん抱きしめてやれ。
 その伝説の茸傘、だっけ?それがある今なら、近付くこと出来るだろ。
 言葉で伝わらなくても抱きしめれば、少なくとも、相手の温もりと心音は届く。
 小人たちも、強くなりたいとか、魔法を教えて欲しいとか、
 そういう気持ちがあるなら、魔女に向けて叫んでみろ。
 誰かに頼られることで、あったかい気持ちとか、そーゆーのに気付くこともあるだろ」

穏やかにそう告げた。
そうして王子は二人の成り行きを静かに見守りつつ、困惑する小人達に囁いた。

「姫が母親を抱きしめたこのタイミングである意味自然の象徴的な?小人たちが、魔法教えて欲しいとかさっきみたいに夢や希望、魔女へのお願いを口にすることで、魔女の心に温かいものが戻り始める。
 そして最後の最後、姫の言葉で母としての自覚も少なからず芽生え、大団円―でいいんじゃね?」

成程、とばかりに納得した様子の小人達は、おずおずと女王へと懇願するように口を開いた。
「はじめまして魔女さま、いいえ、お妃さま… あなたにとっての貴女は…魔女で、そこから繋がる女王であるかもしれないけれど…姫さまにとっての貴女は間違いなく母上さまでした。 姫さま、ずっと、心配されてたの…。

…高らかに響くその声は、自信に満ちた 女王さま自身の才の証に違いありません。
魔女さま、私に魔法を教えてくれませんか?
このちっぽけな小人にも、誰かを守る力を…」

「こ、このお花、女王様に差し上げます!
…女王様は美しいけれど、皆が女王様を好きな理由はそれだけじゃありません。
姫がここにいても、いなくても、皆女王様のことが好きだし、一緒に楽しく、幸せに過ごして行きたいと思っている筈です。
でも私達は姫のことも大好きだから、皆で一緒に…幸せになりたいです。
あ、あとあとっ、双子さんも家来さんもバチバチはせずに、やっぱり皆で楽しく幸せに過ごしましょう!ねっ?
皆で食べるキノコシチューは格別ですよ!」

「女王様、私は女王様のことをよく知りませんが、心優しい姫様が女王様を助けたいというのだからきっと本当は女王様も優しい方なんだと思うんです。
私も皆幸せに笑顔で暮らしたい。
憎しみや嫉妬や怒りを抱えて生きるより、笑って生きるほうがずっとずっと楽しいと思いませんか?」

胸前に両手を組んで願いを込めてそう告げると、最後はにっこりと皆に視線を向けて「ね」と同意を求めながら満面の笑みを見せた。

「こんなにも愛情深い方々がいるなんて。」

女王は小人達の言葉に心を打たれ、声を震わせてそう呟くように漏らす。
近付いてきている翠の小人の手を取り、

「私(わたくし)なんて、魔法以外、
 魔法で得たこの美貌以外取り柄がないようなものですの。
 だから、この子にも嫌われているんじゃ無いか、
 全てを奪われてしまうんじゃないかと思っていましたが、
 どうやら、そのような事はなかったのね…。  
 初めて会った私のような者を諭して下さるあなた方になら、
 いくらでも、お力になりましょう。
 それよりも、相談役として、
 この娘のためにもこの愚母に人の道を教えていただきたいですの。
 楽隊の席は空いていますし、いつでもお迎えいたします。」

そう言って女王は白茸姫を抱きしめる。姫の頬に手を当てた。

「今までごめんなさいね、白茸姫。
 あなたが許してくれるなら、一緒に治世をして欲しいの。」

白茸姫は女王の手のひらに頬を寄せて、その手に自分の手を重ねる。

「いいえ、いいえ、おかあさま…。
 今まであなた一人に重責を負わせてきたのです。
 これからは、私も一緒に背負う番ですわ。」

笑いながら声を振り絞ってくれた小人たちや、ここまで一緒に来てくれた双子のツンデルとグレールを振り向いて、「ありがとう、皆さんのおかげです。」と頭を下げる。

「あなたにも、本当に迷惑をかけて、申し訳ありません。
 これからも、私たち2人を見守ってくれると心強いのだけど。」

女王は家来に頭を下げた後、王子と双子に向き直り、

「どこの誰かは存じませんが、
 姫を連れてきてくださりありがとうございます。
 手間賃として、少しばかりの宝物を差し上げたいと思います。
 もらってやってくださいな。」

王子はといえば、既に自らの役目は終わっているとばかりに、少し離れた距離からその光景を眺めていた。

「俺はいらねーから、こいつら(双子)にやってくれ」
「…え?」

可笑し気に笑い、視線でツンデルとグレールを示す。
「宝は見つけるもんだ」と、王子は持ち前の冒険心ゆえにあっさり断るのだった。
譲られた双子たちは棚ぼたに目を瞬き、しかし遠慮などする気はみじんもない。

「それじゃ遠慮なく。おい、グレール。色々あったけどこれがゴールだ。たまにはイイことしてみるもんだな!
お宝はいただいた!!じゃーなー皆!」

どこぞの盗賊のような台詞でしめると、颯爽と消えてしまった。
全てが落ち着いた頃には王子の姿も無く、国に戻ったか或いは次の冒険に出かけたか―

「おかあさま。私、やりたい事ができました。  ここまで連れてきてくれた、影ながら支えてくれたあの人へ、恥じない政をなすことです。」


・・



― …こうして皆の温かな愛ある言葉で、女王の冷え切って凍り付いた心もようやく解かすことが出来ました。

その後、女王と白茸姫と、そして側近に迎えた優秀で献身的な家来と共に、平和な国を築いていくのでした。
小人達は祭事の度に白茸姫に呼ばれ、城下で歌い踊り、国の平和のシンボルとして親しまれたそうです。

ツンデルとグレールは抱えきれないほどの宝物を手に、懐かしい我が家へと戻ります。 二人を捨て後悔の念に苛まれていた両親は二人の無事に涙し、宝には目もくれず二人をきつく抱きしめました。
四人は女王に貰った宝物のお陰で貧乏から脱し、幸せに暮らしたそうです。

また、女王と白茸姫の統治のお陰で貧富の差は徐々になくなっていき、いつかこの四人だけでなく国中の人達が平穏で身も心も豊かに暮らすことができるのでしょう…

そして、風の様に去っていった王子はと言えばその後も北に南に、人助けをしながら気の向くまま自由に”冒険”というなの旅を続け、一回りも二回りも大きくなった後、自身の国を目まぐるしく発展させ歴史に名を遺したとか……
もちろん、白茸姫の国とは良好関係を続け互いに成長していくことでしょう。

…めでたしめでたし ―