変わらない二人
天音チカ、姫鵜メルの二人は同じハンターであるも、学園所属の時とは違い所属ギルドの管轄が違えば会うことも殆どなく、それまで接点も特になかった。

しかし、メルの卒業後5年ほどした頃のこと。
その頃にはチカは中堅ハンターとなっており、ぶっきらぼうながらも面倒見の良さもあってか、時々後輩を飲みに連れて行っていた。
その際に利用したのが、ペクトライトの料理屋であり、メルの実家だった。
たまたま家の手伝いをしていたメルに偶然再会、まるで学園生活がそのまま戻ったかのような気の置けないやり取りに、その後も時々飲み合う仲になっていった。
大抵は…

「うー、チカせんぱーい…もー、嫌っス。どーせ、あたしなんて女子力低いし、女として見られないんすよー。」
「お前…飲み過ぎ。でもってその話、11回目だっつーの。」

こうして彼女の愚痴を延々と聞き続けるのだ。
勿論相手が彼女に限らず、大抵飲みに行くと先輩同僚後輩等々…チカは聞き役に徹している。
今回もこうして、酔って呂律が怪しくなり始めたメルに対し、彼はため息を吐きつつ水を勧めていた。

「ぶー、先輩の意地悪。先輩こそ、ギルドの受付のマドンナさんとはどうなんスかー?もう結婚とか考えてたりー?」
「ぁ?いや、別れた。」
「えぇー!?」
「馬鹿、声がでけーよ。」

お酒の効果もあって遠慮のないメルの大声にチカは思わず耳を塞ぐ。

「何で?!」
「…………。」

メルの問いにチカは眉を顰め、面倒くさそうにため息を吐いた。

「相手が誰であれ、話聞いて欲しそうに連絡してきたら放っておけないだろ。」
「彼女さんを放ったんスねー。」

痛い所をつかれて一瞬言葉に詰まるが、後悔は無いし、優先順位が変わることもない。
別れる理由は大抵決まってコレだ。

「ふふ、なんだー、フラれんぼ同士じゃないっスかー。…あっ、独り身同士付き合っちゃうっスか?」
「無理」
「ひどいっス!!あんまりっス!!!どーせ、あたしなんて女子力低いし、女として見られないんすよー!!!」

悩む素振りも躊躇する様子も見せず、即答するチカ。
酔っぱらってテーブルに突っ伏し号泣するメル。
最早このやり取りはいつものパターンと化している。
時間が巻き戻ったかのように、12回目の話にも突入している。

そして…

「…スー…スー…」

いつの間にか、メルは静かに寝息を立てながらテーブルに体を預けていた。
思いの限り、言いたいことを言ってすっきりしたのだろう。
チカは目を細め、何を思ってか寝ているメルの鼻を摘まむ。

「……ふがっ…うう…チカせんぱーい…もう飲めないっス…」

一瞬苦しそうな顔をしたかと思えば、むにゃむにゃと寝言を呟く。
その様子にチカは、ふ、と息を吐くように笑うと、自身の上着をそっとメルの背中に掛けるのだった…。

◆天音チカ
卒業後、地元である農業都市ベリルのギルドに所属。
始めこそ先輩ハンターと組んで活動していたが、攻守バランスよく一人でもオールマイティに対応できる為、指名依頼も多く評判が良かった。暫くベリルで経験を積んだ後、王都オブシディアンのギルドへと移籍した。