女は強く逞しく 卒業してハンターになった留守レンジュ、星井アンネマリー、朱鷺ミソラの三人は、それぞれ所属ギルドは異なるもののこの日は同じ依頼に居合わせていた。 依頼内容は、ヘリオドールの奥にある遺跡の調査。 シルヴァンとの友好化が進み、ヘリオドールを通過してシルヴァンに抜けることも出来るようになったのだが、その新街道整備の為の工事中、新たに発見された遺跡なのだという。 そこで今回は考古学者が探索に入る前に遺跡内の安全性を調査をするという依頼だった。 あたりは薄暗く、ひんやりとした空気が流れており、壁からは時折ピシッという音が聞こえてくる。 また、床にも苔が生えており、かなり長い間人が入っていない事を物語っていた。 そんな不気味な雰囲気の中、先頭を歩く一人の少女がいた。 「レンちゃーん、あんまりグイグイ進むと転ぶよ〜。そーいうの得意でしょ。」 「ちょ、星井さん変なフラグ立てないでくださいよ。そして俺別にドジっ子キャラじゃないですし。」 「…きゃっ!」 アンネマリーとレンジュのやりとりに気を取られていたミソラが苔に足を取られてすっ転んだ。 幸い怪我は無かったものの、膝小僧を擦りむいてしまったようだ。 「大丈夫ですか!?ミソラさん」 「痛たた…」 「あれ、別な方でフラグ回収されたわ。ごめーん、ミソラッち、立てる?」 なぜか謝るアンネマリーにミソラは思わず可笑しそうに小さく肩を揺らし差し出した手を掴んで立ち上がる。 と、此処までは随分と和やかな雰囲気だったが… ―ガタガタッッ!! 突然大きな揺れと共に、何かが崩れる音がした。 「え?何!?地震……ですかね……ってうわあああ!!」 音の方に振り向くとそこには大量の魔物達がこちらに向かってきている姿があり思わず声を上げるレンジュ。 よく見るとそれは巨大な蟻のような姿をしており、しかもその数はどんどん増えていく。 あまりの数の多さに一瞬呆気に取られる三人だったがすぐさま戦闘態勢を整える。 「うう、気持ち悪い…この数、私達だけで大丈夫かな…」 「とりあえずやるだけやってみましょう。ダメなら逃げるまでです。」 「そうだねぇ。じゃあ、いきますかぁ!」 三人は迫りくる大群に立ち向かうべく、武器を構えた。 *** それからしばらく経つも、一向に数が減らない魔物達に苦戦する三人。最初は順調に倒せていたものの、徐々に疲労が見え始めてきた。 このままではまずいと感じたのか、一旦引くことを提案しようとしたレンジュだったが…… ―――その時だった。 『雪花乱舞!』 突如として現れた何者かによって放たれた無数の氷の刃により、一気に敵が一掃される。 今しがた魔術が放たれた刀。 白く透き通るような刀身を鞘に納める立ち姿には三人はよく見覚えがあった。 「イオリ…先輩!?どうしてここに!?」 それは彼女たちが憧れる学園OGであり、現SSランクハンターの神保イオリだった。 学園では代が異なる為一緒にはなっていないものの、ハンター新人研修の担当教官としてひと月ほど行動を共にし、みっちりスパルタ教育を施されたのだ。 「貴様らこそ、何故ここにいる。」 イオリは長い髪をかき上げながら、双眸を細めて三人を一瞥した。 「私たちは依頼でこの遺跡を調査しに来たんです。」 「それより、さっきの技凄かったですね!あんなにたくさんの敵を一撃だなんて。」 「お疲れ様です」と真面目に挨拶をするレンジュに対し、興奮気味に話すミソラ。 「……貴様らの覚えた魔術の応用のようなものだ。」 イオリは表情を変えず、淡々と答えていた。あたりにまだ魔物の気配がないか慎重に探知しているようだ。 「へぇーそうなんですね。ところで、イオリさんはどういった経緯でこの遺跡にいるんですか?」 「…………」 「あ、あの……イオリさん?」 急に押し黙ったイオリの様子に戸惑うミソラ。 すると、アンネマリーが横から 「まーまー、ミソラっち。この人そういう感じだから。あんまり深く考えない方がいいよぉ。」 と言いながらミソラの両肩に手を置いた。 「……私はあいつらに用がある。お前たちはさっさとに戻れ。」 そう言うと、イオリは逃げていった蟻の魔物の気配を捉えると、 『疾風迅雷』 通った声で唱え、全身に雷を纏うような術を展開し、瞬く間にその場から姿を消した。 「え、ちょっ待ってください!」 慌てて呼び止めようとしたミソラだったが、時すでに遅し……。 「行っちゃった……」 「うん、でもなんかちょっと懐かしい気がしない?」 「確かに。この絶妙に振り回されてる感が。」 アンネマリーは困ったように笑いながら肩をすくめ、二人に視線を流す。レンジュは小さく頷き、それでも楽し気に口元を緩めるのだった。 「また会えるといいな。」 「そうだねぇ。あ、じゃあさ、イオリさんが戻ってきたときにお土産持って行こうよ。」 「いいですね。それじゃあ俺、美味しいケーキ作りますよ。」 「えー、レンちゃんの手作り?やったー楽しみにしてるー。」 「ふふ、任せて下さい。」 そんな会話をしながら、三人は再び歩き始めたのだった。 ◆留守レンジュ ペクトライトを拠点にハンターとして活動する傍ら、実家の教会を手伝っている。 卒業後に髪を伸ばしたことでぐっと女らしさが増し『戦うシスター』と一部では話題になり隠れファンもいるようだ。 アンネマリーとミソラとは卒業後も連絡を取り合っており、奔放なアンネマリーと天然のミソラ、ツッコミのレンジュととても相性のよい三人のようだ。 ◆星井アンネマリー 卒業後ハンターとして活動。 好き嫌いがはっきりしている為、自分が「面白そう」と思った依頼しか受けない。 卒業して間もないころネタで受けた、ファッションモデルが若手デザイナーの目に留まり、よく指名を受けている。時折どちらが本業か分からなくなる時もあるが、「可愛い服がタダで着られて一石二鳥!」と本人はまぁまぁ楽しんでいるようだ。 ◆朱鷺ミソラ 卒業後ハンターとして活動。 悩み相談から探し物、時には魔物と戦う日々。魔術を使えない状況下でも対応できるように、先輩ハンター(主にイオリ)から護身術や剣術指南を受けている。 在学時から炎龍カイの事が気になっており、卒業後も時折食事をしたり手紙のやり取りをしているもののまだはっきりと気持ちは伝えられておらず『友達以上恋人未満』の関係が続いている。 |