◆◇◆◇Episode

一般市民の参加。
それだけでも十分話題性はあった。
そう、誰もが“参加する”ことに感情を揺るがせ、ある者は「何故市民がこんな大会に…」と不満を口にし、ある者は「貴族を叩きのめしてやれ!」と日々積る不満のはけ口とばかりに煽る。
そう、その殆どが、彼等がまさか勝ち進むとは思っていなかったのだ。

しかし大会が始まれば、それが進むにつれて、観戦者の声が変わって行く。
最初は野次を飛ばすだけだった者達が、神風学園が連戦連勝するにつれて、彼らの実力を認めざるを得なくなったのだ。
気付けば神風学園を応援する声も、対戦相手である騎士や、騎士学園の生徒を応援する声も、ほぼ均等に、そして熱を帯びたものへと変わっていた。

そんな神風学園の生徒も、5戦目をもって連戦記録を止めた。
その後も大会は続き、結果、騎士学園の生徒チームが優勝した。
天掟ミカド(てんじょう みかど)
橘 アラン(たちばな あらん)
藤林 オーウェン(ふじばやし おーうぇん)
八束 ラン(やつづか らん)
騎士学園生徒会チームである。
個々の能力だけでいえば対戦相手である騎士の方が上であったのだが、彼らの連携は実に巧みで、まるで部隊の一つかのようであった。

十分に、武闘大会は楽しめた。
誰もがそう感じていた。

最後に、大会優勝者が好きに対戦相手を指名出来るエキシビジョンがある。
大抵はそこで騎士団長や副団長を指名するのだが―――

「…す、すごい…」
「これ、学生のレベルじゃないわ」
「あの姉ちゃんもやるな!何で出てなかったんだ?!」

金属同士がぶつかり合う音が鳴り響く。
観戦席にいる者達全員の眼が、舞台に釘付けにされた。
騎士も、貴族も、市民達も、皆が舞台で戦う二人に魅入らされたのだ。

優勝チームのリーダーであるミカドが指名したのは、神風学園生徒会長“神保 イオリ(じんぼ いおり)”であった。
チームとしてではなく、彼は一対一の勝負として、彼女の名を口にしたのである。

「…欲しい人材ですね、バロン様」

大会の警備に当たりながらも戦いの様子を眼に留めて、小花衣 キティ(こはない きてぃ)は静かに言った。

「貴族だったらな」

彼女の隣で同じように視線を舞台へと向けたバロンはぶっきらぼうに呟く。
ミカドの剣をイオリは寸前でかわし、刀を振るう。
再び両者の刃がぶつかり合い、歓声が上がる。

チーム戦で優勝したミカドはその名前から元々目立つ存在であった。
しかしイオリは違う。
今回の大会に、神風チームとして一度も姿を現さなかった。
今年で卒業する彼女はあえて他生徒達の成長のため、自身は参加しなかったのだ。
とはいえ、そのような事情を貴族達が、市民達が知るはずがない。
だからこそ、彼女の登場に皆驚き、その実力に眼を奪われたのである。

二人の戦いは、学生の域を超えていた。
魔術が、技が、ぶつかり合う。
そのたびに観戦席から驚きの声が上がり、応援の熱が高まる。
そして――

ギィィン――――――
金属音が鳴る。
これまで幾度となくぶつかり合った両者の刃が離れ、同時に一方が、膝をついた。

その瞬間、会場が静まり返る。
――次の瞬間、一気に沸き立った。
自然と観戦席にいた者達は立ち上がり、歓声が、拍手が、二人に送られる。

「………まったく」
「アヤメさん?」

観戦席にいた騎士学園の生徒、ニレは、隣で小さなため息を吐くアヤメに視線を移した。

「…折角あいつのやり方に不満を持つ子たちが出て来て、
 少しは痛い目見ればいいのにと思っていたのに、
 これじゃあ認めざるを得ないじゃない」
「神風学園の方々の登場と連勝記録、
 その学園の代表である彼女の能力、そして…」

共にいるロベリアは、舞台を見つめる。
そこに立つ、優勝者を。

「ミカド様の勝利、うまく纏まりましたわ」
「……これが狙いだったのかな」

神風学園を訪れた際の、ミカドのあの愉し気な表情を思い出しながら呟くニレに、「違うわよ」とアヤメがため息交じりに零した。

「あいつはもっと先を狙っているはず。
 昔からそう。だから怖いのよ……」
「…ふ〜ん。
 いずれにしても神風学園の存在感は増した。
 これからどうなるかな」

鳴り止まない歓声と拍手。
こうして二日間におよぶ武闘大会は、今までと異なるタイプの盛り上がりを見せ、幕を閉じたのであった。