レクラン王国の城の渡り廊下に、二人の騎士がいる。
九々龍バロンと、小花衣キティだ。

「レクラン王国だけでなく各国で魔素減少が確認されています。
 クロムソード公国程の減少レベルではありませんが、
 近頃は魔術、武装技の使用に支障も出始めているようです」
「…くそっ、どーなってんだ」

淡々と状況報告を述べるキティとは対照的に、バロンは苛立ちを隠せず前髪をくしゃりと掴む。
クロムソード公国から帰国して二ヵ月。
帰国直後は「パワーリング」に関すること、一連の事件のこと、留学していた生徒達のことで騎士学園や神風学園との連携事項等々、雑務も含めてとにかく忙殺される日々を送っていたため気に留める暇も無かった。
しかしここ最近どうだ。
レクラン王国だけでなく各国で魔素減少が確認され、最近では魔術、武装技も威力が低下、或いはうまく発動しないといった事例が起きている。
レクラン王国、シルヴァン帝国による調査チームによると、古代兵器スレイプニルの爆発が発端ではないかとのこと。
クロムソード公国に起こった魔素枯渇の現象が、今や世界規模で起ころうとしているのだ。

「他国の中には、レクラン王国の対応を非難する声もあるそうです。
 爆発が発端であれば、古代兵器の破壊は本当に正しかったのかと…」
「あの時あの場所にいなかった連中は好き勝手言えるもんだ」
「…はい。爆発の際に近くにいたサク様なら、何か気付いたことがあるかもしれませんが」

事態の把握、情報の精査を行うためにも、二人は副団長である護旦サクの執務室へと向かったのだが、彼はいなかった。
アサヒ王女の警護だろう。そう考え時間、日を改めるものの会えない。
それに比例するようにバロンの怒りが日に日に増していくのを、キティは感じ取っていた。
単純にタイミングの悪さ、すれ違いが理由ではないからだ。
誰に聞いてもここ最近、副団長の姿を見ていないというのだ。
彼が執務室にいないことは珍しいことではない。
しかし、今回はこれまでと何かが違っていた。
そして、

「大変だ!」

慌ただしく騎士の一人が駆けて来る。
声は震え、緊張を帯びていた。

「ふ、副団長に、ダリア=R=ブルスケットの、公族殺しの容疑がかけられた!」

一抹の不安が、現実と化した瞬間だった。