扉奥の風景にわずかに目を見開くも、かけられた声の先に見知った顔を認めれば静かに目礼を返す。 奥まったテーブル席を一瞥し、カウンター席へ足を向けた。
「とりあえず、コーヒーで 氷抜いてもらっていっすか」
脱いだジャケットは無造作にスツールに放り、その隣へと腰を下ろしながら注文を済ませると、深呼吸でもするようにゆっくりと息をついた。 カウンターについた片肘に重心を預けるように体を傾け、軽く瞼を閉じること暫し、自身の中で何かしらの決着がついた模様。 脱力するように前へと倒れかけたところで、勢いよく上体を起こした。 タイミングよく出されたグラスへと手を伸ばし、
「ども。……正直、どこよココって感じなんすけど――あ、 因みに俺のこと分かります?」
店員と認識のすり合わせを始めた。 |