神風学園イベント
帝国からの来訪者

エピローグ2
シルヴァン皇帝夫妻の滞在目的は、リングの研究施設の視察だけでなく、レクラン各地の名所や施設を巡ったりと多岐にわたった。ロランド一人で向かうこともしばしばあり、空いた時間に開かれるアサヒとキナリーのお茶会がすっかり日課となっていた。
アサヒはキナリーの自由奔放さに振り回されつつも初日に比べ幾分か距離が近くなったようで、時折自然な笑い声が聞こえてきた。
一方アズラとロランドは一見すると和やかに言葉を交わしつつも平行線、まるで互いに腹の探り合いをしているようだった。

そして瞬く間に、最後の晩餐となり…

「―…であるな。」

アズラとロランドの会話が切れたところに、アサヒが緩やかに笑み口を開いた。

「ロランド様、キナリー様、数日ではございましたがレクランはいかがでしたでしょうか?」

ロランドは表情を変えず視線をアサヒに向けた。

「…此度の来訪は誠に有意義であった。
 アズラ国王陛下に心よりの感謝を致すと共に、
 王女においては連日の同行、キナリーへの心遣いに礼を言う。」

キナリーはロランドを立てるよう、口を出さずにアサヒに微笑みのみを向けた。

「心遣いだなんて、恐れ多いことでございます。
 キナリー様の御傍にいると私の方が心癒されるようでしたわ。」

「そうか。キナリーも貴殿を大変気に入っているようだ。
 是非に我が国をみてもらいたい、とな。
 ひいては先日話していたパワーリングの実証実験も兼ね、
 貴殿らをシルヴィアに招待したいと考えている。
 長年の国同士の蟠りはしがらみのない若人の交流により取り除くべきである、という話もでたところだ。
 王女だけではなく、学生らの留学というのも価値があると思うが。のう、アズラ国王陛下。」

双眸を細め、アズラへと視線を流し、口端に僅かな笑みをのせる。

「…それは…」

予想外の言葉にアサヒは口ごもった。
するとアズラは短く息を吐き、助け舟を出すように口を開いた。

「ロランド陛下よ、魅力的な申し出ではあるがその話はすぐに返事は出来ぬ。
 私の可愛い一人娘なのでな。」

「その心情は子が居らぬ故理解しがたいな…
 では、帰国後に正式な申し出を行わせていただこう。」

わざとらしく顎に手を当て、悩ましい表情を浮かべて見せたあと、緩やかに双眸を細めて。

「そなたも子を持てば分かることよ…」

アズラは眉間の皺を深くすると、ゆるゆると首を振りながら今度は長く深い息を吐き出した。ロランドはそれを見て満足げに笑みを浮かべ、だがそれ以上は追求することはなく、そのまま最後の晩餐を終えた。

そうして、小さな波を立てながらも、翌日には夫妻は再び民たちの華やかな見送りをうけながら自国へと帰っていく…

「アサヒ達来てくれるのかしら?」

船上にて緩やかに手を振りながら、キナリーは弾んだ声でロランドに問いかける。

「さてな。」

気の無い言葉とは裏腹に、目の奥には好奇心と傲慢さの入り混じったような熱を帯び、口元には僅かに笑みが乗っているのであった……

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