神風学園イベント
帝国からの来訪者

プロローグ2
初夏の日差しが眩しい昼下がり、シルヴァン皇帝夫妻が来国する日。

シルヴァンとレクランとの国境は山岳地帯で馬車での移動が困難な為、今回は船での入国となり、ペクトライトの港にはシルヴァン皇帝を一目見ようと野次馬や記者たちが集まりいつも以上に賑わっていた。
こうした歓迎ムードがある傍ら、未だ戦争時の蟠りの残る中高齢者たちは何とも言えない空気を纏い、静かにその光景を眺めていた。
港から馬車で王都へと向かう道すがらも同じような光と影を感じつつ、表向きは華やかに出迎えられた。

「申し上げます、陛下。シルヴァン国ロランド陛下、キナリー陛下がお見えになりました!」

静寂な謁見の間に響く声。
玉座の前に並ぶシルヴァン皇帝夫妻、そして玉座に座るレクラン国王アズラと隣に立つアサヒ王女。
張り詰めた空気に騎士たちからも、緊張感が伝わってくる。

「久しいな、ロランド皇帝陛下。キナリー皇妃陛下に於いては、初見参に入る」

「アズラ国王陛下。此度は我が申し出を快く引き受け、斯様な機会を与えてくれたこと誠に感謝する。」

シルヴァン皇帝が胸に手を当て御辞儀をすると、隣に立つキナリーは膝を折った。

「なに、技術とは広め競い合うもの。
 我が国としても、貴国の移動技術を始めとして様々な意見交換を行いたい。
 …とは言え、長旅で疲れただろう。
 まずは食事でもしながら、歓談といこうではないか」

こうして二人の王が簡単な挨拶を終えると、広間にて昼食会が開かれた。

アズラとロランドが世界情勢や政の話を交わす隣で、アサヒとキナリーは時折相槌を打ちながらも静かに食事を取っていた。

しかし不意に、互いの視線が合う。

これまで殆ど口を開かなかったキナリーが堪えきれなくなったように、クスクスと可笑しそうに笑った。
対して唐突なその様子にアサヒはぱちりと瞬いた。

「不思議。どうしてみんな怖い顔してるのかしら。」

不思議と惹きつける、キナリーの澄んだ明るい声がアサヒに向けられる。
アサヒは一度アズラとロランドへ視線を向け、変わりなく話し続けているのを確認し、ようやく口を開いた。

「…皆、内心は怯えているのではないでしょうか。
 先の見えない暗闇に立たされているような、この状況に。
 かくいう私も不安は拭えませんもの。」

キナリーはアサヒの言葉にきょとんと不思議そうに見返し、

「暗闇で前が見えないのなら灯りをともせばいいわ。」

屈託のない笑みを浮かべてそう応えた。

アサヒは二度も豆鉄砲を食らったような気持ちでぱちりと瞬き、そして柔和に微笑んだ。

「ええ…そうですね、
 きっと貴女様が皇帝の灯りとなり導くのでしょうね。
 私は…」

ふと過る自身の求める光の存在。小さく疼く胸のあたりを、きゅと握り抑えた。
その思いを知ってか否か…アサヒの言葉を遮るようにキナリーが「そうそう」と思い出したようにぽん、と一度両手を合わせた。

「後でお城を案内して欲しいの。
 外のお城は初めてだもの。探検してみたいわ。」

「探検、…ですか?
 では、私のお気に入りの庭園をご案内しましょう。
 テラスに食後のデザートのジェラートでもご用意させますね。」

頭では戦争は終わったと分かっているものの、どこか壁を作り”レクラン王女”という体裁を整えていたアサヒだったが、無邪気なキナリーの様子に気づけば自然と笑みを零していた。
常に自然体のキナリーにアサヒが心開くのにそう時間はかからないことだろう…。

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