神風学園イベント
帝国からの来訪者

プロローグ
レクランの北、世界有数の大国として知られる”シルヴァン帝国”。
数々の国を武力で制圧し我が物としてきた強国であるが、魔素枯渇現象には諸外国同様成す術なく、いよいよ窮地に陥りつつあった。

「…皇帝陛下、恐れ多くも申し上げます。
此度の魔素枯渇の影響により、我が国の保有している源鉱石(クリスタル)の魔素も徐々に消耗しており…魔動船や、魔動飛行船は使用を停止。国民の魔動機器に関してもいつ使用できなくなるか、不安に抱くものも少なくありません…。…国土はありとあらゆる山々、海底まで調査を進めておりますが、未だ安全に使用できる鉱山は見つからず…」

「諄い…簡潔に申せ。」

どこか怯えるような従者の言葉を、抑揚のない冷たい声が遮る。
艶やかな白銀の長い髪に暗い森を思わせる深緑の瞳、品を感じる佇まいだが、それ以上に伸し掛かるような威圧感を纏っている。
その男こそ、現シルヴァン皇帝、ロランド=エル=シルヴァンである。
歴代の中で醜悪の暴君と言われる父、前皇帝を討ち、更には前皇帝に連なる権力者達を血の繋がりも構わず全て処刑もしくは国外追放とし、一部には”氷の皇帝”とさえ呼ばれている。

「はっ…現在我が国保有のイオライトおよびクリスタルの約五割が使用できなくなっており、通常消費を鑑みますと、我が国の原動力は一年保つか…、という危機にございます。早急にイオライト、クリスタルに代わる原動力が必要であると…。」

「ほう…貴様は余が国の事情も把握できておらず、数年先も想像できぬ浅はかな愚物だと申すのだな。」

ロランドは変わらず感情ない声で、双眸を細め冷ややかな視線を向けた。

「ひっ……!…いえっ!滅相もございませんっ!!!も、勿論、ご、ご存知と思いますが、隣国レクランには"パワーリング"という代物があるとか。」

皇帝の視線に男は慌てて深々と首を垂れた。そしてそのまま、慎重に言葉を選びながら話をつづける。

「…し…試用段階ではありますが、微量の魔素からエネルギーを増大させる力があるとのこと。…現在、魔素の減少傾向は緩やかになっております故、鉱石の採掘を止め、パワーリング技術を導入して、新たな動力源の開発、有限資源を倹約することで今後数百年は安泰かと存じます……。つ、つきましては…………―」

ゆっくりと顔を上げ、諂うような笑みで言葉を続けようとするが、その先がなかなか出てこない。
そして、周囲の者もごくりと唾を飲んだ。
その様子に、遂に呆れたロランドが大きくため息を吐き出し、見下すように立ち上がり視線を落とした。

「腑抜けが。……まぁ良い。

 気は熟した。

 ……レクランへ書簡を、”皇帝が動く”とな。」

こうして、戦争終結以来初となるシルヴァン皇帝とレクラン国王の対面という一大事件へと発展するのであった…。

[ 戻 る ]