士学園生徒会がやってきた!!
- prologue -

春特有の柔らかく、暖かな陽射し。
農業都市ベリルは周囲を緑豊かな広大な土地に囲まれているため、他の都市に比べても季節の移り変わりを感じ易い。穏やかに流れる風に、この季節芽吹く草花の香りや土の匂いが交じる。
耳を澄ませば野生の鳥達のさえずりが聞こえ、少し足を運べば澄んだ川で休息を取ることが出来る。
そういった環境下から、ベリルに別荘を構える貴族も多い。

―そんなベリルに、その日数名の貴族の若者が訪れていた。

「………」

身長175p程度の、中性的な顔立ちの人物。
淡い薄紫の髪を片側でお団子にして簪を付け、一房垂らしている。
線が細く女性的な雰囲気を纏うが、彼が着る制服は男性用だ。
彼、兎丸 アヤメ(とまる あやめ)は込み上げてくる言葉を飲み込み、ただ一つため息を吐く。
というのも、

「今日は一日、彼等の学園に行くよ。学園見学だよ」

皆の視線が集まる先には、一際目を惹く端正な顔立ちの青年、騎士学園の現生徒会長、天掟ミカド(てんじょう みかど)がいた。

「…可笑しいと思ったのよ。
 突然『別荘に招待するよ♪』なんて言い出して
 昨晩は至れり尽くせりだもの…」

彼等は昨日ベリルに到着し、天掟家が所有する別荘の一つに泊まった。
貴族の中でも上位に位置する天掟家の別荘だ。招かれる者達も限られ、そのもてなしも一般の貴族とは比べものにならない。
ミカドを古くから知る橘 アラン(たちばな あらん)やアヤメは何度か経験があるとしても、他の者達は初めてのことだった。

…しかし、その理由が今判明することとなる。

平日。のんびりと朝食を終え、これから騎士学園に帰るのかと誰もが思ったその時、「神風学園に行くよ」とミカドが言い出したのだ。天掟家のもてなしを受けた後で、その提案に異を唱えることができるだろうか…。

アランは眉間に刻んだ皺を一層深くし、他の者達は唐突のことに何とも言い難い表情を浮かべている。

「…ミカド、あたし達の学園の方はいいの?
 生徒会長と副会長が同時に抜けてるのよ?」

「アヤメちゃんは心配性だね。でも大丈夫、大丈夫だよ。
 なんたって優秀な後輩に任せてるからね。
 彼にもそろそろ僕等の仕事を覚えて貰わないと」

ただ一人、暢気に微笑むミカド。
一見無邪気にも映るその様子に、彼らは従う他無かった。

こうして、その日の昼時、騎士学園の生徒達が“交流”と称して神風学園を訪れたのだった。